第3話

 平和な町を突然襲った怪人アラクネイトと対峙する、新米ヒーローの俺。

 アラクネイトは人のような姿で頭が蜘蛛、腕が合計六本で、足を入れて八本。

 元はアラクネだろうけど、部位単位で見れば人間か魔物かの配置が逆転してると言っていい姿をしている。


「さあ、私の糸に大人しく捕まりなさい!」

「絶対にお断りだ!」


 もしもアラクネイトが蜘蛛の魔物アラクネの進化系ならば、警戒すべきは粘着質な糸と、ワイヤーのように強靭な糸とのコンビネーションだ。

 この糸たちの面倒なところは、行動を制限されるという部分。

 粘着糸は言わずもがな、ワイヤー糸もたった一本でトラックを持ち上げられるほどの強度を誇ると言われる。

 さらに現場には何十人もの人が糸に捕らわれて地面に倒れているから、彼らを避けながら戦う必要もある。

 絶対に捕まらないように、そして絶対に踏まないように、気を付けて戦おう。


 アラクネイトが口をクチュクチュ動かし、白い球を弾丸のように発射!

 予備動作が大きくて球の動きも単調だから、ヒーローっぽく軽くバク宙して回避!

 俺は自慢できる程度には運動神経抜群だからな!


「ふーん、意外とすばしっこいのね。だったらこれはどうかしら!」


 そう言って次は白い球を乱射!

 だけど軌道が同じなら避けるのも容易く、周囲を大きく回って全弾回避。

 と同時に「次はこっちから行くぜ」と一気に切り込む!

 左から右への薙ぎ払いは、やっぱりまだ感覚が掴めてなくて回避される。

 だけどもっと踏み込み、突き攻撃ならば!


「たあッ!」

「うっ!? チッ、クソガキの分際で……」


 直撃こそしなかったが、掠ってダメージを与えられた!

 おかげでこの体の感覚が一気に掴めた。

 この調子で一気に、と思ったらアラクネイトが素早く手から糸を出し、地面に拘束されている女の子を掴んで人質に!

 女の子の悲壮な表情が見るに堪えない……。


「人質とはずいぶんと汚い真似をする奴だな」

「あなたみたいなヒーロー気取りには効果テキメンでしょ?

 さあ、この子の命が惜しければその剣を捨てなさい」

「……仕方がない」


 剣を滑るように地面に投げ、アラクネイトから距離を取る。

 アラクネイトはご丁寧にも剣を糸で掴み自身の元へ。


「約束は果たしたんだ、その子を解放しろ!」

「約束? はて何のことかしらね? あなた分かる? 分からないわよねぇ?」

「はいはい、だと思ったよ」


 女の子を吊し上げ、絶望顔を愉しむかのように耳元で囁くアラクネイト。

 とことん外道な奴だ。

 でも俺は女の子を助けるためにも、惑わされず冷静に逆転のチャンスを探る。


 そういえば、周りの人たちは誰も殺されていない。

 爆発の原因は駐車していた車だし、お店の中は荒らされていないし、そしてアラクネイト自身が戦闘中その場からほとんど動いていない。

 もしかして糸球の発射に時間が掛かって、素早い動きには対処できないのか?

 だとすれば……よし、物は試しだ!


 見出した可能性のため、睨み合いを演じながら立ち位置を調整。

 ……よし、ここなら行けそうだ。


「ふふっ、文字通り手も足も出ないようね。

 それじゃあヒーロー気取りさん、これでお別れよ!」


 アラクネイトはまた口をクチュクチュと動かし、針のように鋭い弾を発射!

 と同時に俺はスラスターを点火し、一気にアラクネイトの懐へ!

 さらに! 先ほど取られた剣を収納即装備で手元に戻し、糸を切り女の子をキャッチして救出!


「なっ、一瞬で!?」


 そのままカフェに飛び込んで、中で隠れてる人に女の子を預ける。


「お嬢ちゃん、もう大丈夫だ」

「こ……こわかっ……」

「うん。よく頑張った。じゃあ後は任せます」

「は、はい」


 極限の恐怖から解放され泣き出す女の子に笑顔を見せて、戦場へと戻る。

 俺の予想通り、アラクネイトはほとんど動いていない。

 顔は怒ってるっぽいけど。


「お前、よくも……」

「アラクネイト、貴様の弱点は見破った! 分かったら大人しく倒されるんだな!」

「あーらデカい口を叩いてくれちゃって。……いいわ、本気で行ってあげる!」


 アラクネイトがまた口を動かし、今度は鉄色の太く長い糸をフレイルのように横振りしてきた!

 俺は屈み、バク転、ジャンプの順で華麗に回避。

 と思ったらジャンプ中にアラクネイトが手から糸を出し俺の足に引っ掛けて、そのまま背中から地面に叩きつけられる!


「がはっ!!」

「アーッハッハッハッハッ! 口ほどにもないわね!」


 追加で二度三度叩きつけられる!

 そのダメージは大きい……はずなのに、俺自身へのダメージはほとんど無い。

 こんなに薄いスーツなのに、衝撃吸収能力が高いんだろうか?

 なんて考えていると、放り投げるように壁に叩きつけられ大の字になってしまい、手足を白い粘着球で拘束されてしまった!


「ふんぬぬぬぬうう~~……っダメだ。びくともしない」

「私の糸は戦車すら動きを止める。子供の力ではどう足掻いても逃げられないわ。

 さーて、おイタをする子に、お仕置きの時間よ。

 衆人環視のまま壊れるまで犯し続けて、最後には苗床として私の子をたくさん産んでもらいましょう!」

「だからなんでそういう方向なんだよ!」


 くそッ、このままだと本当にカテゴリ変更しなきゃいけなくなる!

 脱出方法を考える時間と、俺がを失うまでの時間を稼がなきゃ。

 ……そうだ、相手が勝ちを確信するこういう場面での定番をやってみよう!


「アラクネイト、お前の目的は何だ! アクシュミリアとは何者だ!」

「ふふっ、焦ったその表情がまたそそるわ。

 それじゃああの世への手土産に、教えてア・ゲ・ル♪

 私たちアクシュミリアは、人間と魔物との融合を果たした新たな……いえ、人類を超越した人類、ネクストヒューマノイドよ!」

「人間と魔物の融合体、ネクストヒューマノイド……だって……?」


 そんな話、聞いたこともないぞ!?

 となると何故町の人を殺さずに拘束してるのかも、話が変わってくる。

 動きが遅くて殺せてないんじゃない、目的があって生かしてあるんだ!


「お前たちの本当の目的は何だ? 何故この町を襲った!」

「二度同じ質問をするだなんて、ずいぶんなせっかちさんね。

 ……ねえあなた、世界創造神話はご存じ?」

「い、一応は。内容には自信ないけど……」

「ふふっ、可愛い顔しちゃって。だったらお姉さんが教えてあげるわ。

 世界創造神話の第四章には、こう書かれているの。

 名もなき創造神は世界を創造して力尽き、その亡骸から百の神が生まれた。

 そのうちの一つが、左目から生まれた【邪神ゴルゴーン】よ。

 邪神ゴルゴーンは他の九十九の神々と世界の覇を競って戦い、最後は相打ちに等しい形で倒され大地に封印された。

 一対九十九の戦力差で事実上の相打ちよ? 素晴らしいわよね。

 ……その邪神ゴルゴーンの封印された地こそが、ここ♪」

「っ!? つまりお前たちの目的は、邪神の復活と、邪神との融合か!?」

「ご名答~♪ 復活だけでなく融合まで答えられるだなんて、中々やるわね。

 そうして人と魔物と神、三つの力を得た私たちアクシュミリアは、神をも超越する存在としてこの世界を支配するのよ」

「そんなこと、俺が絶対にさせないッ!」


 時間稼ぎの最中に、思い当たった脱出手段がある。

 そのために俺はスラスターを思いっきり吹かす!


「アハハハ! 無駄よ無駄! その程度で私の拘束から逃れは……何!?」


 蜘蛛の糸は虫も魔物も同じで、タンパク質から作られている。

 そしてタンパク質は熱すると構造が変化して壊れる。

 つまり! スラスターを思いっきり吹かした熱で、蜘蛛の糸を構成するタンパク質が壊れて脆くなる!

 俺自身もめっちゃ熱いけどな!!


 まずはスラスターの熱が直接当たる足の拘束が剥がれた。

 姿勢とスラスターの向きを変えて腕にも熱が当たるようにすれば、ベリベリと剥がれていき……!


「ぐんぬぬぬ……今だ!」


 剥がれたタイミングで剣を呼び戻し、勢いそのままに振り下ろす!


「はあっ!」

「ッぎゃあああ!!」

「よしッ! 右腕二本頂き!」


 本当ならばこの一撃で倒したかったけど、まだこの体に完全には慣れてないせいで微妙に狙いがズレた。

 とはいえ腕二本だ! これでアラクネイトは弱体化するはず!


「って、そんなのありかよ!?

 しかもこっちはコアの色が……」


 切り落とした断面から糸が伸びて、落ちてる腕を縫合して回復していく!

 こんな高度な回復能力まで持ってるのかよ!

 しかもこっちは胸にあるコアの色が緑から赤に変わって、エネルギー切れを警告し始めた。

 ちなみに点滅したり警告音が鳴ったりはしていない。


 エネルギー切れが近い。

 となるとやっぱり、必殺技じゃないと倒せないって流れか。

 ……必殺技、持ってねーよ!!


「必殺技っぽいの、何か無いか? 何か……」


 周囲を見回しても、それっぽい何かは何もない。

 まさかの、ヒーローなのに必殺技が無くて敗北かぁ!?

 そう焦り散らかしていた、その時だった。


「が、がんばれ! お姉ちゃん、頑張れ!」


 声の先に目をやると、さっき助けた女の子が俺に声援を送ってくれている!

 そしてその声に釣られるように、拘束されてる人たちからも次々に声援が!


「……そうだ、ヒーローたるもの、声援には答えなくちゃな!」


 声援のおかげで冷静さを取り戻す。

 その時、街頭ビジョンから流れるオペラ公演のCMが耳に入った。


『――クライスラー劇団が贈る、終わりを告げる愛の叙事詩。

 古典オペラ・セリア『イドメネオ』、四月二十三日公演開始です』

「イドメネオ……これだ!!」


 俺のヒーローとしての勘が叫んだ!

 これを必殺技の名前にするぞ!


「もう、もう! もう許さない!! その体バラバラに引き裂いてやる!!」

「その言葉を初めて有難いと思ったけど、結局カテゴリ変わるじゃねーかよ!

 ぶっつけ本番で形すらないけど、みんなの声援を信じて、やってやるぜ!」


 剣を両手でしっかり握り直し、腰を落としてスラスター全開!

 急加速し飛び上がり、勢いのままに剣を振り下ろし叫ぶ!


「【イド・メネオ】!」

「ギャアアアアアッッ!!」


 突貫工事で作った発動するかも分からない必殺技!

 だけど剣はしっかり反応して、なんと剣身が上下に開いて眩く輝き、アラクネイトを一刀両断!


「わ、私がこんな子供に、負ける、だ、なん……ッ!!」


 直後、お約束とばかりにアラクネイトは爆発!

 背中に熱さを感じ、剣が閉じる甲高い金属音を聞けば、どうにか勝ったんだと俺の頭も理解した。

 そして。


「か、勝った! お姉ちゃんが勝った!」

「「「うおおおおお!!!」」」


 方々から上がる大喝采!!

 だけど俺自身は、興奮よりも安どと疲労に襲われるのだった。


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