第4話

 魂武装の儀を終えた直後の初陣でアラクネイトに辛くも勝利!

 とはいえヒーローの仕事はそれだけで終わりじゃない。


「この糸は魔物のと同じで、炙ると弱くなります!」

「分かりました!」


 まずは魔法の使える人を解放し、捕らわれている人を救出していく。

 ただし俺は魔法が使えないから使い捨てライターで。

 同時に、駆け付けた警察にも事情説明と情報共有をしておく。

 最初犯人と間違われて捕まりそうになったのを、あの女の子が助けてくれた。

 俺が助けたはずなのに、俺のほうが助けられっぱなしだ。

 それはそれでヒーローの日常っぽくて悪くはない。


 救出作業中、近くの警官に声を掛けられた。


「なあ君、あれもそうか?」

「……だと思います」


 警官が指さした先には、ビルの三階部分の壁に張り付く繭状の糸がある。

 はしごの届く高さじゃないし、窓のない壁だから内側からの救出も無理。

 となればスラスターで飛びながらだけど……エネルギー足りるかな?

 コアは赤く点灯している。救出中にエネルギー切れになれば俺だって危険だ。

 エネルギーと言えば、この世界では未知のエネルギーは大抵魔力で説明がつく。

 だからこのソウルフォームのエネルギーも多分、魔力で説明できるはず。


「魔力回復のポーション持ってませんか?」

「僕は持ってないけど、コンビニに売ってるはずだよ」

「ちょっと買ってきます」


 変身姿のままコンビニに入り、ドリンク類の棚から魔力回復ポーションを見つけてレジへ。


「お願いしまーす」

「いやいや、さすがにヒーローからお代は頂けないよ」

「そう言わずに。レジの金額が合わないとあとで大変でしょ?」

「ははっ、面白いね君。じゃあ280レンになります」


 レンというのはこの国の通貨だ。

 缶ジュース一本100レンで、コンビニ弁当が一個300から400レン。

 俺は月にだいたい10万レンくらいで生活してる。


「えーっと……そういえば財布どこだろ?」


 今更だけど、変身してるからお財布もポケットもないんだった。


「だから言ったでしょ? 気にせず持って行っていいよ」

「すみません。ありがとうございます」


 コンビニ店員さんのご厚意に感謝し、外に出て魔力回復ポーションを一気飲み。

 昔はガラス瓶に入ってたポーション類も、今では手のひらサイズの小さなペットボトルで売られている。

 おかげで飲みやすくて保存も容易。捨てるのだって簡単だ。


「やっぱりだ。コアの色が緑に戻った」


 このソウルフォームに使われるエネルギーは、魔力で間違いない。

 さてエネルギー補給も済んだから、さっきの人を救出に行こう。


「スラスターの出力管理、ちょっと難しいな。

 おーい大丈夫ですかー? 今助けますからねー」


 両足を壁に付け、スラスターで体を押し付けるようにして安定させて、燃やさないように慎重に糸を炙っていく。

 何度目かのおかげで慣れてきた結果、真ん中を一直線に炙れたので、手を突っ込んで「ふぬぬー!」と力を入れ繭を開ける。

 繭に捕らわれていたのは、エメラルドのような綺麗な緑髪の、エルフの女性。

 この顔どこかで見たような……? いや、それよりも今は救出優先だ。

 気絶している女性の脇に手を入れて抱え、慎重に引きずり出して地上へ。


「ふう、どうにかなった」

「この人、警備隊副隊長のセリカさんじゃないか!」

「あっ! だから見たことがあったのか!」


 町には警察の他に警備隊というものがある。

 警察は対人、警備隊は対魔物という感じで分かれているが、両者が手を組むことも珍しくはない。

 ちなみに冒険者協会という昔から続く組織もあって、こちらは主に町の外で活動していて、警備隊とめっちゃ仲が悪いらしい。


「……ん……ここ、は……」


 良かった、セリカさんはすぐに目を覚ました。

 副隊長さんのことは警官に任せて、俺は他の救出へ。

 次に向かったのは、二本の街路樹の間に張られた巨大な蜘蛛の巣に捕らわれている、くの字に折れ曲がった高級車。

 何がどうなったら車がこんな場所に引っかかるんだろうか?


「誰か乗ってますか?」

「……はい……二人います……」

「じゃあ上から救出しますね」


 ドアはひしゃげてしまっているけど、これくらいならば剣で切れるはず。


「ハッ!」


 さすがは神様が聖剣並みと言うだけあって、鉄のドアが紙切れのように切れてしまった。

 後部座席には俺と同年代の銀髪の女の子と、運転席にたぶんお父さんかな?

 お父さんのほうは頭から出血して気を失ってる。


「先にお父さんを降ろすから、ちょっと待ってて」

「わ、分かりました……」


 姿勢が厳しいけど、どうにかお父さんを抱えて……と。

 地上にお父さんを降ろしてすぐに戻り、次は女の子。


「掴まって」

「はい……」


 女の子は俺の首に腕を巻き付けるようにして、強く抱きしめてきた。

 俺の倍くらい速い心音と、アメジストのような紫の瞳からこぼれる涙が、彼女の受けた恐怖を否応なしに伝えてくる。

 アクシュミリア……絶対に許さん!


 俺の力が必要そうな現場は大方片付いた。日が暮れる前に引き上げるとしよう。

 そう思って一息ついたその時! 規制線を乗り越えてきたマスコミのマイクとカメラに囲まれてしまった!


「えっ!? ちょちょちょ!?」

「あなたが怪人を倒したというのは本当ですか?」

「その格好はコスプレか何かですか?」

「年齢は? お父さんやお母さんは?」

「どこに住んでいるんですか?」

「学校は? お友達に一言ください」


 ゴミ!

 と叫びたくなったが、俺はヒーロー。ここは抑えて……。


「細かいことは警察の発表を待ってください。それじゃ!」

「だったらせめてお名前だけでも!」

「あー、名前……」


 そういえば、ヒーローネームが無いと今後の活動にも支障があるか。

 とはいえこういうのはパッと思い浮かぶものでもないし……必殺技の時みたいに周囲にピンと来る何かがないかな?


「えーっと……ん」


 目についたのは、ビルの一階に入っているおもちゃ屋さんのポスター。

 一つはモーターと電池二本で動く架空の車で、俺も子供の頃めっちゃハマった。

 もう一つはプラモデルで、大きく映ってるのは昔のラリーで活躍した車だ。

 この二つを合わせて……うん。ピンと来た!


「俺の名前は【セイヴァーストラトス】だ! じゃあな!」


 スラスターを吹かして空から囲みを突破!

 ヒーローは格好よく去ってこそだからな!

 で、人気のない場所で変身を解き、あとは素知らぬ顔をするだけだ。


 家に着いた頃にはもう夜の十時を回っていた。


「あ゛~疲れたぁ~」


 リビングのソファに前のめりに倒れ、全身の力を抜く。

 俺は今、実家で一人暮らしをしている。

 母親はアイドルで事務所社長でTVタレント。現在はツアーの真っ最中。

 父親は機械工学の研究者でその道では有名人。現在は研究室に缶詰め。

 三歳上に兄がいるが、どこで何をやってるのか聞いてもはぐらかされる。

 そんな感じなので、実家なのに一人暮らしという矛盾が成立してしまうのだ。


「絶対にニュースになってるんだろうな」


 寝ころんだままテレビをつければ、案の定。


『引き続きユグデール市の怪人事件をお伝えします。

 本日午後六時ごろ、ユグデール市の中心部に突如として蜘蛛のような姿をした怪人が出現し、次々と街の人たちを襲いました。

 数分後に謎の少女がこの蜘蛛型怪人と戦闘を繰り広げ撃退。

 その後の取材で少女は自らをセイヴァーストラトスと名乗り、空へと飛び去ったということです。

 この事件での死者は幸いにもおらず、十二名が襲撃時の攻撃による怪我などで近くの病院で治療を受けています』

「おおっ! 死者ゼロ人マジか!

 初めての戦闘にしちゃ、これ以上なく上手く行ったんじゃないか?」


 ちょっと元気出た。

 そのおかげか急激にお腹が空いたので、お湯を沸かしてカップラーメンを食べる。

 ついでに、テーブルに置きっぱなしのノートPCで必殺技の元ネタを調べよう。


「イドメネオは、デウス・エクス・マキナの手法を用いたオペラの代表的な演目。

 デウス・エクス・マキナってのは……物語が解決困難な袋小路に入ったら、神様の声がして強引に事態を解決する。だから機械の神と呼ばれていると。

 戦闘を終わらせるって意味じゃ、メカ少女の必殺技としてアリだな」


 俺の場合そのままじゃなくて『イド・メネオ』と区切ってみた。

 そっちのほうが必殺技っぽいと思ったからな。

 でも発動したんだから、それでいいってことにしておこう。


「ついでに一応、ネットの反応も見てみるか」


 いわゆるエゴサ。で、すぐに去り際のインタビュー映像が大量に出てきた。


「無断転載ダメゼッタイ。えーっと……おおむね好意的か」


 一部には自演やらステマを疑う逆張りキッズも湧いてるけど、大半のコメントが顔が可愛いだとかメカが格好いいだとかで埋まっている。

 あとは子供なのを心配する声や「俺っ娘かわええ!」というコメントもちらほら。

 まあね、中身男ですから。


「警察発表をまとめてるコメントもあるな。

 事件の首謀者は人間と魔物を合体させたアクシュミリアで、目的は邪神の復活。

 セイヴァーストラトスは正体不明ながら味方側と断言していいだろう、と。

 ……警察を味方につけられたのは大きいな」


 正直、一番心配していたのが世論が敵に回る展開だった。

 でもどうやら大丈夫そうなので安心した。

 そして疲労と安心に満腹なのも合わさり、気づけばソファで寝てしまうのだった。


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