第50話 悪徳商人

 その後、籠城は一か月続いた。


 当初は健闘していたアニスたちだったが、ここにきて物資の補給がないのが響いていた。


 特に深刻だったのは矢と兵糧で、武器庫と食糧庫は底が見え始めてた。


(井戸があるので、水に不自由していないのはせめてもの救いだが、このままだとマズイな……)


 アニスやアルフレッドは日々そのことで頭を悩ませ続けた。


 モーゼンから援軍が来てくれたのはよかったが、その分、諸々の消費が右肩上がりに増え、備蓄は急速に失われつつあった。


 対照的に反乱軍は補給が容易であり、周辺の町や村から強奪した物資も含め、余裕を見せていた。


(あの人はどうしているだろう……)


 夕暮れ時、アニスはカリアスが戦っているであろう、北西の方角を眺めた。


 反乱軍は籠城側の士気をくじくため、クルキア軍が大敗しただの、カリアスは殺されて首をさらされただのと、連日、砦に向かって呼びかけていた。


 しかし、アニスたちは誰もそれを信じなかった。


 もし事実とすれば、敵はもう少し積極的に攻撃してくるはずだからであった。


(しかし、味方が救援にこなければ、ここもいつかは攻め落とされる……)


 アニスは密かにため息をついた。夕焼けの空を鳥が群れをなして飛んでいく。


(ああ、私も鳥になることができれば)


 しかし、アニスの願いも空しく、時間は刻一刻と過ぎ去るばかりだった。





 そんなある日、思いがけない人物が砦の前に現れた。


 アニスが贔屓にしていた、御用商人のオットーだった。


 その横には宰相のオドの姿もある。


 オドは、アニスに城壁の上に来て、対話に応じるよう申し入れた。


 オットーが来たと聞いて、アニスは急いで城壁の階段を駆け上がった。


 久しぶりに会ったオットーは非常に無礼な態度をしており、ローストチキンを片手に、ワインをあおっていた。


「久しぶりですなあ。アニス様。お元気そうで何より」


 なめた態度になめた口調。アニスは猛烈に腹を立てた。


「オットー、そこで何をしている!」


 すると、名にしおう銭ゲバ商人は、腹を揺すって笑った。


「何って、私は今、宰相様にかわいがってもらってましてなあ。この通り、武器や兵糧もたくさん納めさせていただいてるんですわ」


 オットーが指さす先には、アニスが喉から手が出る程欲しい武器や兵糧が、荷馬車に乗せて山と積まれていた。


「それに引き換えアニス様ときたら、しみったれたものですなあ。お顔もやせちゃってまあ。そろそろ食べ物が底を尽きる頃じゃないですか?」


「黙れ、悪徳商人! いつからそのような不義理な男になった。この恩知らずめ!」


「ああん?」


 オットーは唾を吐くと、ワインのグラスを置き、アニスの顔を睨みつけた。

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