第49話 要塞の秘密

 ところが、敵も決して馬鹿ではない。


 翌日からは馬車の荷台を改良した攻城兵器を投入し、兵の矢除けにして、城門の前の堀を、埋め始めたのだった。


「アホのカルザースやオドにしては、まともな戦い方ではないか」


 アニスはちゃちな攻城兵器に、投擲で油を入れた壺をぶつけ、火矢で焼き払った。


 しかし、衆寡敵せず。


 三日後には敵は、犠牲を払いつつも、堀の一部を埋め立てた。


 そして、そこから兵を入れ、長梯子を使って砦に乗り込もうとした。


 もちろんアニスはそんなことはとうにお見通しで、ルフルトに命じて、城壁の上から敵兵に煮立った油や糞尿を浴びせたり、用意していた岩塩を投げ落としたのだった。


「ギアッ」


 反乱軍は短い悲鳴とともに、梯子から真っ逆さまに落ちていく。


「チェンバネの名産だ。あの世の土産に持っていけ」


 アニスが言うと、側にいたアルフレッドがうなずいた。


「まさに塩対応ですな」


 ふん、とアニスは鼻で笑った。


「招いていないお客様方だが、せっかくのお越しだ。丁重にお帰りいただかなければな」


 アニスやルフルトの見事な指揮により、その日も反乱軍は損害を増やした。


 そして次の朝、寄せ手の兵士が目撃したのは、


「あっ、あれは!」


 砦に翻る、いくつものモーゼン公爵の旗だった。


 その前夜、モーゼンからの援兵は、リマルの案内により、見事に砦への入城を果たしていた。


 実は砦は、リマルの設計で地下の岩塩坑とつながっており、町はずれの秘密の抜け穴から出入りができるようになっていたのだった。


 援軍は千人で、兵力の増した砦の中は、歓声に包まれた。


 逆に歯嚙みをしたのは、カルザースやオドたちである。


「女狐、小癪な真似を!」


 援軍の引き入れも済んだので、アニスは今度は逆襲に打って出た。


 夜間、秘密の抜け穴から兵を外に出し、敵の陣地を襲ったり、ゲリラ活動を行ったのである。


 火を付けられた天幕や、寝ている間に無残に殺害された仲間の死体を見て、反乱軍は恐慌状態に陥った。


「これは砦の外に伏兵がいるか、どこかに抜け穴があるはずだ」


 ようやく事態の深刻さに気付いたカルザースは、篝火を増やして夜間の監視を強化させるとともに、抜け穴を必死に捜索した。


 しかし、反乱軍がようやく抜け穴を探し出した時には、すでに坑道はアルフレッドによる人為的な落盤でふさがれた後だった。


「あの女、必ずいぶり出してやる!」


 激怒したカルザースだったが、反乱軍は連夜の寝不足や緊張で憔悴していた。


 敵の攻勢がやや弱まったこともあり、籠城軍は懸命に戦い続けた。 

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