第51話 降伏勧告

「生憎と私は商人でしてね。金が儲かるなら、白猫だろうが、黒猫だろうが、知ったこっちゃないんですよ」


 オットーは偉そうに、鼻を鳴らした。


「むしろ今日は長年の恩顧に感謝して、いい話を持ってきたんですぜ? この私にそんな態度をとっていいんですかあ?」


「いい話とは何だ。どうせろくでもないことだろう」


 眦を吊り上げるアニスに対し、オットーは右手の人差し指を左右に振った。


「チッチッ。アニス様やお子様方のためになることですよ」


 オットーが語ったのはアニスの降伏についてだった。


 今すぐに城門を開けば、アニス母子だけでなく、砦に籠った者たちもすべて助命。


 食料もすぐに支給する。それが降伏の条件だった。 


「宰相のオド様は寛大であらせられる。アニス様も条件がいい時に降伏なさった方がいいと思いますよ。私ならそうしますがねえ」


 そう言うとオットーは、チキンの足をさもうまそうにねぶった。


「門さえ開ければ、今すぐにこれが食べられるんですよ。ああ、おいしいなあ。まいう」


「黙れ、私が騙されると思ってか」


「騙すなんて人聞きが悪い。アニス様やお子様方のためです。門を開けてくれさえすればいいんです。簡単なことでしょ?」


「貴様、ふざけるな!」


「ふざけてなんかいませんよ。まいう、まいう、まいう~」


 そこに、オドも割って入った。


「王妃、この者が言う通りです。長年の付き合いです。私も女子供に残酷なことはしたくありません」


「うるさい。二人とも二度と私の前に姿を現すな!」


 アニスは怒り心頭で城壁から駆け降りた。


 オドにもムカついたが、何よりもオットーの裏切りが許せなかった。


 直後に反乱軍の猛攻が始まった。


 喚声がじょじょに、城内に近づいてきたような気がする。


 戦況は最悪なものとなりつつあった。

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