第5章 かりそめの平和
第38話 笑顔の王子
アニスがなんとかパルシャガルの王宮に戻ると、自力で歩けるくらいには回復したカリアスが、今か今かと待っていた。
「王妃!」
カリアスはそれだけ言うと、あとは無言で、アニスと息子を抱きしめた。
父も泣き、母も泣き、赤子も泣いて、親子初のそろっての対面は、涙、涙で終始した。
十日後には、出産の報を聞いて、はるばるパトナからヴァイツァーもやって来た。
すると、ヴァイツァーも、
「姫様!」
やつれ果てたアニスを見て、泣き崩れた。
カリアスはせっかく国が守られ、王子も誕生したのに、皆泣いてばかりなので、これではいけないと、王子の名をミルンと名付けた。
ミルンは、古いクルキア語で「笑顔」という意味だった。
戦場と出産の苦労が祟って、アニスはしばらくの間、寝込む羽目になった。
しかし、カリアスが暗殺されかけただけに、ミルンが殺される可能性も否定はできず、またミルンへの贖罪の気持ちもあって、育児はできるだけ自分でやろうとした。
ベッドの横に赤ん坊の寝台を置いて、一緒に寝起きする毎日。
夜泣き対応や授乳も引き続き自分で行った。
それは貴族としては異例中の異例だったが、誰もがアニスの胸中を慮り、意見する者はいなかった。
カリアスは、そんなアニスが心配でならず、寝不足にならないよう、ついには親子三人、川の字で寝るようになった。
ミルンが夜泣きした際は、カリアスが起きて面倒を見た。
それも一国の王として異例中の異例だった。
そんな親子そろっての生活のおかげか、生まれた当初は成長が懸念されたミルンだったが、両親の愛情と庇護を一身に受け、次第に大きくなり、ふっくらとしてきた。
アニスはそれを見て、ようやく笑顔を取り戻した。
そうなると一人の母親として、我が子がかわいくて、かわいくて、仕方なかった。
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