第21話 中傷ノ雨ニモ負ケズ
(よし、今だ)
アニスは、商人としては有能なオットーを活用し、父が持たせてくれた資金を原資に、珍奇な商品を取り寄せては、情報を元として、各地の貴族と贈答関係を結び始めた。
貴族は、気前よく、鷹揚に振る舞うことが美徳とされた時代である。
東に嫁入りを控えた娘がいると知れば、見事な真珠の首飾りを贈り、
南におしゃれ好きの夫人がいると知れば、東洋からもたらされた光沢のある絹地を贈り、
西に夫を亡くした妻がいれば、カリアスと連名の、丁寧な慰めの手紙を贈り、
北に祝い事があると聞けば、実家のあるパトナから優美な工芸品やワインを取り寄せたりもした。
物のやり取りというものは貴族にとって非常に重要な行為であり、言い換えれば、貸し借りの関係が生まれるものである。
そもそも気の利いた物や、国王夫妻からの手紙をもらってうれしくない人間はこの世に存在しない。
オットーが大々的に売り出したせいもあり、寒冷地のため、元々ワインの生産量が多くないクルキアでは、ウィストリア産のものが瞬く間に珍重されるようにもなった。
すると次第に社交界でも、
「新しい王妃は賢く、文化的なお方である」
「気遣いのできる、心やさしい国母」
「王は素晴らしい方を伴侶となさった」
などと、アニスを褒めたたえる声も出てくるようになった。
特に酒好きは、男女に関わらず、アニスを、「王妃の中の王妃」と高く評価した。
(現金なものだ)
アニスは呆れたが、嫌われるよりは余程いいので、その後も鷹揚に振る舞い、あちこちに気を遣い続けた。
中でも意外な効果を発揮したのが、錬金術師アルフレッドが作る、謎の頭痛薬だった。
最初は片頭痛に苦しむアンナのために作らせたものだったが、不思議と効いたせいか、たちまち中高年の貴婦人の話題の的となった。
「王妃様、なにとぞ頭痛薬を頂戴したく」
アニスの元には、貴婦人たちの使いが日参するようになった。
もちろんアニスは快く、薬を無料で渡すことにした。
そのため、毎日、毎日、薬を作らされるアルフレッドは、
「王妃様、そろそろ勘弁してください。このままでは他の研究ができません」
と愚痴をこぼしたが、アニスは、
「お前には、“鋼の精神の錬金術師”という二つ名があるのだろう? だったら、耐えろ」
と一蹴した。
「嫌なら、工夫して量産体制をとれ。ヴァイツァーならそうしたはずだ」
「そ、そんなあ。。。早々にフリーメンになりたい」
かくしてアニスはますます賞賛されることとなり、秋を迎える頃には、王宮で確たる存在感を放つようになっていた。
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