第22話 出る杭とアニス様は、打たれる

 もっとも、出る杭が打たれるのは、洋の東西を問わない。


 アニスの王妃としての台頭とともに、アニスを妬んだり、反発する者も少なからず出てきたのだった。


 彼・彼女らの多くは、アニスのウィストリア出身という出自に目を付け、かっこうの攻撃材料とした。


「ウィストリアの女狐が、何やら企んでいるとか」


「いかにも成り上がり者らしく、金や物で人の心を買っているらしいぞ」


「ワインなど、ウィストリアの産品を無理矢理、売りつけているとか。完全に敵国の回し者ではないか」


 特に今まで社交界の中心だったカリアスの異母姉妹たちは、政治力や存在感を増していくアニスに復讐されたり、自分たちの立場が危うくなることを極度に恐れた。


 そこには当然、ねたそねみも含まれている。


「下品な余所者の女に、王宮の主導権を与えてはいけません」


「誇りある王家には、成金貴族と違い、伝統とやり方というものがあります」


 アニス自身は、自分がウィストリアの工作員のように思われるのは得策でないので、これまでウィストリア王国の関係者との接触は、極力控えてきた。


 むしろクルキアに嫁いだからには、クルキアを第一と考えるべきと思っている。


 しかし、そんな思いとは裏腹に、大貴族たちからの陰口や批判の声は日に日に大きくなるばかりだった。



 しばらくして宰相のオドは、陰湿な陰口(特に妻の声)に押されるように、逼迫する国費確保のためと称し、王妃の生活費を捻出するために支給されていた領地(化粧領)を収公し、東部の僻地をその替地とした。


 カリアスの反対も、大貴族たちが結束して阻止する始末だった。


 背景には、アニスの積極的な活動を封じ込め、王家の発言力の拡大を抑止したい貴族たちの思惑と、その妻や娘たちの暗躍があったのは言うまでもない。


 他国から来た王妃として、侍女や家臣を養わなければならないアニスには、新しい領地を経営し、恒久的な生活資金を捻出する必要が生じた。


 一転、窮地に陥ったというわけである。


「クルキアの腐れ貴族ども、なかなかどうして、楽にさせてくれないではないか」


 そうは言いつつも、アニスの瞳には、毎度のことながら、闘志が宿っている。


「アホどもの、思惑どおりになってたまるか!」


 とりあえず、視察のために新領地、チェンバネに派遣されたのは、若き鉱山技師、リマルだった。

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