第7話 天下の銭ゲバ商人、オットー
オットーが語るところによると、ウィストリアの民にクルキア領内の自由通行が認められたため、アルバロは、領主の娘が王妃となるクルキアの王都パルシャガルに早速、支店を構えたのだという。
「そこを任されたのが、次男の私というわけでございます」
アニスは鷹揚にうなずいた。
「なるほど。たとえ、各地の関所で通行税を取られたとしても、人の流れや商機が拡大すると見込んだというわけか」
「さすがは王妃様。まさにその通りでございます。それでご挨拶を兼ねて、国境でお待ちしていた次第。クルキアでの生活で、何かございましたら遠慮なく私めにお声がけください。王妃様のためなら、いつでも、どこでも、すぐに駆け付ける所存にございます」
「そうか。よい心がけだ」
「おありがとうございます!」
オットーたちは、道中のアニス一行に、新鮮な果物や菓子、ベーコンやソーセージ、チーズにワイン、清潔な木綿布やリネン、上質な紙など、貢ぎ物を大量に献上し、去って行った。
「姫様、幸先がよい。味方はいないより、いた方がいいというもの」
ヴァイツァーが言うと、アニスはフンと鼻を鳴らした。
「どうだろうな。いざとなったら名前と同様、我らを切り捨てるような気がする。しかし」
「しかし?」
「持ってきた物のセンスは悪くない。ワインや食物は、道中の楽しみとなるし、道の霊に捧げれば、旅の安全にもつながるだろう。欲深そうな者だが、名をおぼえておくのも悪くなさそうだ」
「名前は、多少長いですがな」
「そうでもない。もうおぼえた。銭ゲバ商人の、オットー・リター・ガルメント・リッペンハウゼン・モーデルハムとな」
馬車の中の空気は、珍妙な商人の出迎えにより、思いがけず少し和んだ。
「本当に我らのリター(救援者)であればいいのだがな」
「そうですな。何事も良い方に考えるべきかと」
しかし、国境を越え、事前の打ち合わせどおり、最初の町の広場でアニス一行を出迎えたのは、重武装したクルキア軍の正規兵、なんとその数、二千人だった。
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