第6話 強欲商人の、熱き商魂

 アニスとヴァイツァーが何事かと窓から覗き見ると、少し先の道端に馬車が停まっており、商人らしき男たちがひざまずいている。


 リーダー格と思われる男は、彫りの深い顔立ちの、なかなかの男前なのに、まるで道化師のような奇抜な恰好をしており、アニスは思わず口元をゆるめた。


「我らはパトナより参りました商人。クルキアの新しい王妃様がお通りと聞き、お待ちしておりました。なにとぞ、お目どおりを願いたく」


 道化師風の男は必死に懇願のアピールをしている。


 アニスは家宰に目をやった。


「山賊には見えんな。ヴァイツァー、知っておるか?」


 ヴァイツァーはふむ、とうなずいた。


「あれはたしか、高利貸しのアルバロの倅ですな」


「アルバロ。馬や武具も扱っている、城下の豪商だったな」


「いわゆる、死の商人というやつです。あと、小麦類や塩なども、手広く商いしているはず」


「評判は?」


「悪魔からは良いようです」


「その息子か。息子の評判は?」


「無類の女好きで、教会でも、懺悔するのに二時間かかるので、出禁になっているとか」


 アニスは笑って、鼻を鳴らした。


「どおりで暑苦しい感じがするわけだ。よく言えば精力的ということか。気に入った。会おう」


 アニスが馬車を止め、ヴァイツァーとともに道に降りると、商人たちは少し離れたところで両ひざをついた。


 道化師風の男が膝をにじって前に進み出、胸の前で手のひらを組む。


「拝謁を賜り、恐悦至極に存じます。私めは、ベッセナー商会に属する、オットー・リター・ガルメント・リッペンハウゼン・モーデルハムと申します」


 これには、アニスも困惑した。


「私は聖職者ではない。あと、商人にしては、いくら何でも名前が長過ぎではないか?」


「申し訳ございません。では、オットーとお呼びください」


「後の部分が、全部なくなったではないか」


「恥ずかしながら、複雑な家庭に育ったものですから。どうかお気になさらず。それに私めの呼び方など、何であれ、1ゲルダーにもなりませんので」


「なるほど。親に似て、立派な商人というわけか」


 アニスが口角を上げると、オットーも愛想笑いを浮かべた。

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