第38話決戦の果て
黒炎と白光が激突し、村の広場全体が轟音に包まれた。
炎の渦が吹き飛び、木々が軋み、瓦礫が宙を舞う。
村人たちは声も出せずにその光景を見守っていた。
「ぐっ……!」
槍を握る手が痺れ、全身から血が噴き出しそうになる。
刻印の痛みはもはや限界に達し、立っていることすら奇跡だった。
対するヴァルガは外套を裂かれ、肩口から血を流していた。
それでもなお笑みを浮かべ、声を張り上げる。
「やるではないか……さすが魔王の部下! だが――このまま朽ち果てろ!」
黒炎が再び膨れ上がる。
まるで村そのものを呑み込もうとする巨大な火球。
その熱で空気が歪み、村人たちは顔を覆って後退した。
「レイン!」
ナギサが泣きながら俺に縋る。
「もう死んじゃやだ! ナギサを置いていかないで!」
その叫びに、心臓の奥で何かが震えた。
――守らなければ。
俺は村を、ナギサを、仲間を守ると誓ったはずだ。
「……俺は、死んでも立ち上がる!」
血を吐きながら槍を構え、叫ぶ。
「魔王の部下だった俺が――今は人を守る盾になる!」
黒炎の巨塊が放たれる瞬間、槍の穂先に白い光が宿った。
それはこれまで以上に強烈な輝きで、視界を焼き尽くす。
「うおおおおおおおおッ!」
渾身の力で槍を突き出し、炎を正面から迎え撃つ。
轟音。
閃光。
そして、静寂。
広場を覆っていた黒炎が、一瞬にして霧散していた。
残されたのは、胸を貫かれたヴァルガの姿だった。
「ば……かな……」
赤い瞳が驚愕に揺れ、血を吐きながら後退する。
「雑兵に……この我が……」
「俺はもう雑兵じゃない。アレン・ストラウドとして――お前を討つ!」
最後の一撃。
槍がヴァルガの胸を貫き、光が全身を駆け巡った。
轟きと共にヴァルガの体は崩れ落ち、黒炎が跡形もなく消え去った。
静寂が訪れる。
誰もが言葉を失い、ただ燃え残る広場を見つめていた。
やがて、ミレイユが震える声で呟いた。
「……勝った……の?」
その一言が、次々と広場に広がっていく。
「勝ったんだ……!」
「レインが……いや、アレンが……!」
村人たちの歓声と安堵が夜空に響いた。
だが同時に、恐怖と動揺の視線も俺に向けられていた。
――魔王の部下だった男を、果たして信じていいのか、と。
俺は膝をつき、深く息を吐いた。
戦いは終わった。だが、本当の試練はここから始まるのかもしれない。
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後書き
第38話では、レイン=アレンがついにヴァルガを討ち果たしました。魔王の部下だった過去を抱えたまま人を守る選択を示した彼に、村人たちは歓喜と恐怖を入り混ぜた視線を向けます。
次回は、勝利の後に訪れる村人たちの決断と、アレンが新たに背負う運命が描かれます。
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