第30話決断の会議
村の広場に再び人が集められたのは、夜が白み始めた頃だった。
火を灯した松明が輪を描き、中心には村長オルドと、俺、ナギサ、海斗、ミレイユ、そして武器を手にした村人たちが立っていた。
「皆の者」
オルドの声が低く響く。
「昨日の戦いは、我らにとって大きな試練であった。黒外套を退けたのは誇るべきこと。だが同時に……この村に新たな火種を残した」
その視線が俺に注がれる。
村人たちも一斉に俺へ目を向け、空気が張り詰めた。
「胸を貫かれて倒れたはずの彼が、再び立ち上がった。常識ではあり得ぬ。恐怖するのも無理はない」
オルドの言葉にざわめきが広がる。
「やっぱり……普通じゃない」
「魔の力じゃないのか」
「だが助けられたのも事実だ……」
意見は割れ、空気はさらに重くなっていく。
「俺は……」
口を開いたのはミレイユだった。
「怖かった。でも、あの人がいなければ子どもたちは死んでいた。だから私は信じます。レインさんを」
真っ直ぐな声に数人がうなずく。
すぐにダリオが反論した。
「甘い。あの男を受け入れるのは、爆薬を抱えるのと同じだ。村の外へ追放すべきだ」
「ふざけるな!」
ナギサが飛び出し、怒声を上げる。
「レインはナギサの! 守ってくれた! 悪く言うやつ、許さない!」
彼女の耳と尻尾が逆立ち、涙で滲んだ瞳が怒りに燃える。
さらに海斗が前に出て、拳を握りしめる。
「俺は……レインの力が怖い。でも、それを追い出すなんて愚かだ。昨日の策だって、レインが時間を稼いだから成功したんだ。村を守るために利用する。それでいいじゃないか」
その一言に、ざわめきはさらに大きくなった。
利用――その響きは鋭くも現実的だった。
オルドは目を閉じ、しばし沈黙した。
そして杖を突き、再び口を開く。
「恐れも理解できる。だが、迫る脅威を退けるには彼の力が必要だ。よって――我らは彼を村に留める」
その決断に賛同と反発が入り混じった声が広がる。
だが結論は出た。
俺は深く息を吐き、オルドを見据えた。
「村を守る。それだけは約束する」
だが――胸の奥底で、冷たいざわめきが囁く。
死を重ねるたび強くなるこの力は、果たしていつまで“人”としての俺を保ってくれるのか。
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後書き
第30話では、村人会議を描きました。恐怖と感謝の間で揺れる村人たちの意見が割れる中、最終的に「レインを留める」という決断が下されます。しかしその選択は新たな不安の種でもあり、村とレインの関係はますます不安定なものとなりました。
次回は、黒外套の新たな襲撃計画と、迫り来る火の試練が描かれます。
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