第14話森に囁く耳
夜の森は冷え込み、松明の光が木々の間に揺れていた。
異変を確かめるため、俺と数名の村人、そして冒険者たちは柵を越えて森の中へと踏み込む。
「気配がある……」
ダリオが剣を構え、低く呟く。
確かに空気が張り詰めていた。魔物特有の殺気ではないが、何かがこちらを見ている。
その瞬間、茂みが揺れた。
俺は槍を構え、村人を背に庇う。
飛び出してきた影は――獣耳を持つ少女だった。
灰色の耳がぴくりと動き、尻尾が月光を受けて揺れる。
年の頃は十六、七ほど。腰まで届く銀色の髪、瞳は琥珀に光り、布切れのような粗末な服を身にまとっていた。
「……人?」
村人が息を呑む。
少女は息を荒げ、地面に崩れ落ちた。
身体には無数の傷が走り、血の匂いが漂っている。
「待て! 罠かもしれん」
ダリオが剣を向ける。
だが俺は咄嗟に彼の前へ出た。
「剣を下ろせ。どう見ても敵意どころか、命が尽きかけている」
少女は震える唇を開き、か細い声で言った。
「……たすけ……て……」
その一言に、背筋を刺すような感覚が走る。
人の言葉を話す魔物。否、それは明らかに
だがこの辺りに獣人がいるなど聞いたことがない。
村人たちがざわめく。
「魔物だろう!」
「連れてきたら危険だ!」
「でも……子供じゃないか」
ミレイユが前に出る。
緑の瞳が揺れ、必死に訴える。
「この子は怪我をしてるのよ! 放っておいたら死んじゃう!」
だがダリオは首を振った。
「生かせば危険を呼ぶ。獣人は群れで動く。ここで仕留めるべきだ」
剣先が少女へと向けられる。
その瞬間、俺の身体が勝手に動いていた。
槍を突き出し、ダリオの剣を逸らす。火花が散り、空気が震えた。
「……レイン、貴様……!」
「見殺しにはできない!」
俺は少女を抱き上げる。小さな身体は驚くほど軽く、熱に浮かされていた。
その耳がぴくりと動き、弱々しい声がもれる。
「……ありがとう……」
胸に冷たい痛みが走った。
この選択が、また疑念を招くことを知りながらも――俺は少女を村へ連れ帰る決断をした。
村人たちの視線は、恐怖と不安と好奇の入り混じったものだった。
俺は無言でそれを受け止め、少女を背負い直した。
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後書き
今回は森で新たに獣人の少女が登場しました。
救うべきか斬るべきかで対立し、主人公は危険を承知で抱き上げてしまいます。
次回は、この少女を村へ連れ帰ったことで、さらに疑念と波乱が巻き起こる展開になります。
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