第8話 黒鉄の影、初めての引金(トリガー)
カルナスを連れて外へ出た。
皆はそれぞれ、武器や道具の使い方を学ぶために練習場へ向かっている。俺は横目でそれらを眺めながら、心の中の鼓動を抑えられなかった。緊張が汗となって背中を伝う。
「弓の練習場でいいかな。標的は木の板と藁俵でどうだろう?」とカルナスが問う。
「わからないけど、とりあえずそれでお願いします」と俺は答える。声が震える。未知が喉を締め付ける。
構えの姿勢を取った瞬間、想像の縁に触れた手が何かを引き寄せた。M4カービンの影を思い浮かべただけで、黒光りする鉄の塊が掌に降りてきた。艶めく黒。冷えた鋼の匂いが夢の間から浮かび上がる。
「これがアサルトライフルってやつか。鉄なのか? 重くないのか? 持たせてみてくれ」
カルナスが差し出す手に俺は手渡した。
その瞬間、彼の顔が歪む。声が飛んだように出る。
「おおっ……これは。五十キロはあるんじゃないか。君は軽々と持っていたが、これを日常的に振り回すことは無理だろう」
俺は思い出した。
「あ、そうだった。ガチャで得たものは、俺しか扱えない仕様だった。スキル譲渡で解放はできるらしいけど。誰に譲るか、あるいは誰でも使えるようにするかは指定できる。でも、解放したら格納されるかは分からないし。まずはランクの低い物で確かめるつもりです」
カルナスは肩をすくめ、だが好奇心の色を隠せない。
「なるほどな。とりあえず、君の思う通りに試してみろ。じゃ、まずは十メートル離れて、木の板を撃ってみせてくれ」
声に含まれた期待は、獣の嗅ぎたてる匂いのように鋭い。
俺は構えた。スコープはない。銃口と感覚を板に合わせ、息を落とす。
そして──放った。
一発目の音は、世界の裡側を剥がすようだった。耳の鼓膜が震え、空気が裂ける。反動は想像より小さいが、その衝撃は身体の芯に伝播する。標的は外れた。目標を見失った弾。
カルナスは驚き、片足を一歩後ろに引いた。弓しか知らぬ者にとって、銃声は雷よりも不意打ちだ。だが、彼の目は冷静に観察している。弾は小さい。矢とは違う。追えないものがある。
「放つ瞬間に大きな音が鳴るって、先に言ってくれよ」カルナスが笑いを混じらせる。だが瞳は真剣だ。
「木の板では威力が測れない。藁俵を狙えってもらえないか」
俺は改めて狙いを定め、俵に向けて引き金を引いた。弾は藁を貫き、俵の奥へと突き通していった。ぱっと藁屑が舞い、的は局部的に抉られた。
息を吐き、俺は肩の力を抜いた。胸の中に、確かな冷たさが通り過ぎる。黒い鉄の塊が、ここにある。
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