第7話 黒き銃声、異界に堕ちる

カルナスは期待を隠そうともせず、ワクワクした顔でカイの眼を覗き込んだ。

「初めて聞くスキル……無限抽選インフィニット・ガチャ。副団長シリルが“こいつは輝いている”と言い放ったほどのモノだ。期待するなと言う方が無理だよ」


カイは言葉を選びあぐねていた。ポッコ、セイラ、そしてカルナスに、先ほど語ったばかりの異様な“力”をどう説明すべきか。


「……なんて説明すればいいのか分からないんだ。だから、思ったままを話すよ」


カイナスは穏やかな笑みを浮かべた。鋭さを隠し、話しやすい空気を作ろうとする。

「初めてのスキルなんだ。分からないことだらけで当然さ。気楽に話してくれていい」


カイは深く息を吸った。

胸の奥底には、十八で途絶えた短い人生の残響がまだ巣くっている。心臓が握り潰され、光が闇に落ちた、あの夜の感覚――。

だが今は、十二歳の肉体に新たな血が流れている。新たな力を抱えた、この世界の少年として。


「……ガチャで出たものを、順に話すよ」


まずは取るに足らぬ力から。

「体力と敏捷が少し上がった。防御と魔力も、わずかに。それと……状態異常に耐える力。ただし、弱い」


カルナスは黙して頷く。その眼差しは、まるで深淵の水面を覗き込むようだ。


「それから……幻影盾ファントム・シールド。魔力を喰うが、半透明の盾を三つ展開できる」

声が微かに震えた。語る自分ですら信じきれぬ力。


「……本当におかしいのは、ここからだ」


唇を噛み、視線を落とす。

「スキル譲渡……命そのものを渡せる禁じられた術。本来は王族の身代わりにしか使われないらしい」


空気が張り詰める。

その緊張を断ち切るように、彼は吐き出した。


「そして――アサルトライフル《M4カービン》。俺の記憶の底にあった、異界の武器だ」


その名を告げる声は、呪文めいていた。

黒き銃の名は、この異界の理を裂き、地獄の門をこじ開けるかのように響く。


「サバゲーって遊びでよく目にした……あの銃だ。反動は軽い。俺でも扱える。弾倉を撃ち切るごとに、魔力を十五消費するらしい」


カルナスの瞳が光を宿す。だが、カイは怯まず言葉を重ねる。

「最後に……ジョブ、鑑定士。副団長シリルと同じものが視える。ただし、今の俺では格が低い。野菜やキノコが食べられるかどうか……レベル五程度の鑑定しかできない」


語り終えた途端、胸の奥に冷たい汗がにじんだ。

「……これで全部だ。どう説明していいか、正直わからない。でも――俺が引き当てた“異物”は、確かにここにある」


彼の瞳は揺れていた。

欲したものが形を得る――その法則を、恐ろしくて口にできなかった。


カルナスは沈黙を破る。

「凄い……そんなことができるのか。そろそろ副団長シリルが来るはずだ。彼なら君のステータスを測れる。僕は君の基礎数値を知らないから何とも言えないが――まずは、その武器を見せてくれ。全く想像がつかないんだ」


その黒き銃声が、この少年の育成を歪め――

未来を血煙の中へ叩き込むことになる

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る