第9話 連射の宴、藁の破片が舞う
カルナスの瞳が興奮に揺れた。
「もう一回俵に。十メートルなら当たるだろう。頼むよ」
狙い直して、俺はもう一度構えた。今回は外的な補助もなく、ただ自分の感覚だけを頼りにする。指先に伝わるはずの反動の予感を手繰り、呼吸を合わせる。
そして
「これ、連射もできるんですよ」
俺が呟くと、カルナスは驚愕の顔でこちらを見る。まるで、現代の地獄が目の前に出現したかのような表情だ。
「どういうことだってんだ」
彼は目を丸くしている。だが、問いに答える時間は無い。俺は構え直し、引き金を連打した。バッ、バッ、バッ、バッ、バッ、バッ、バッ──七連射が空気を切り裂く。
俵は三分の一ほど崩れ落ち、藁と塵が舞った。あまりにも簡単に出る破壊力。弾の軌跡はまるで黒い稲妻の列で、目視では完全に追い切れない。弓の矢の連射とは違う、即物的で無慈悲な怒濤だ。
カルナスは息を詰め、やがて笑みを押し殺す。
「想像以上だ……これがもし戦場で使われたら、戦術が根底から変わる。少なくとも、近接で突っ込んでくる相手は考えを改めるだろう」
俺は銃を肩に戻し、冷や汗を拭った。掌の震えが止まらない。喜びでも恐怖でもない、ただ純粋な実感。力は現実のものとなり、世界が少しずつ形を変え始めているのが分かる。
そのとき、どこか遠くで鐘が鳴るような音が響いた。小さな波紋が、胸の底に広がる。──獅子の紋章の名はまだ小さい。だが、この黒い鉄が臨むところ、やがては轟音と血の匂いが伴ってくるだろう。
俺は黙ってカルナスを見た。彼もまた、未来の一断面を覗き込んでいる。興奮と恐れが混じった表情は、これから始まる何かの予兆だった。
「……まずは、使い方を覚えろ。弾倉の管理、魔力の配分。連射は魅力的だが、無暗に撃ってはならない。攻撃の道筋(弾道)が分からないと味方に当たる可能性があるからね。」カルナスが静かに言った。
俺は頷く。
黒鉄とひととき向き合う。藁の匣(はこ)に残された穴が、これからの選択肢を象徴しているように見えた。静寂の中で、風が藁をさらい、灰色の光が銃身に反射した。
――この武器で何を守るのか。
――この力で誰を救い、誰を滅ぼすのか。
答えはまだ、暗闇の奥に沈んでいる。俺たちはただ、その入口に立っているに過ぎなかった。
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