第6話 オタク、襲われる



 その日の夜は、食堂で宴会になった。

 高級宿屋だけど食堂は賑やかで、飲み食いするのには問題はなかった。

 あまり人に言えない秘密ばっかり抱えている三人は、飲んでも大きく騒がないらしい。


 ただ、深酒で、女装姿のぼくにひたすら絡み続けてきた。

 オタク趣味と魔法研究ばっかりで、前世も今世も女性経験がないことを白状させられた。


 そのことを聞いた瞬間、なぜか三人はにんまりと笑っていた。

 三者三様に考えていたようだけど、女慣れしてない、ということで女性への接し方が柔らかいのが好印象だったらしい。


 そのまま潰れるまでお酒を飲んで、三人ともふらふらになりながら部屋に帰った。


 その瞬間、三人が服を脱ぎ始めた。


「どぉー、オタクくーん? オタクくんの見たかった、女の裸だよー?」


 エイジャさんが、酔いの回った顔で脱いだブラをつまんで揺らす。

 最後の下着一枚はつけているけど、褐色のおっぱいがぷるぷる揺れていた。


 ぼくは直視できずに、目を背ける。


「え、エイジャさん! 服を着てください!」


「えぇー? あーしら、いつも寝るときは裸だしー。やった後なんだから、宿屋で服着て寝るなんてことしないってばさ。野営じゃないんだからさー」


 とは言っても、見るのは失礼だよ。

 ましてやエイジャさんは、リーシャさんやクルスさんと良い仲なのに。


 そう思っていると、反対側ではリーシャさんが脱いでいた。

 エロ親父のような顔で、おっぱいを揺らしながら手をわきわきさせている。


「えへへぇー。美少女、美少女。おねーさんがたべちゃうぞぉー」


 そう言ってリーシャさんはぼくに襲いかかり、下着を残して服を剥ぎ取っていく。


「な、何をするんですか、リーシャさん! 落ち着いてください!」


「良いね良いねぇー、オンナノコの恥じらう顔、おねーさんを誘ってるの?」


 うふふ、と妖艶に笑うリーシャさん。

 完全に酔っている。ぼくは男です。


 助けを求めてクルスさんに視線を求めると、彼女も諦めた顔で首を振った。


「エイジャもリーシャも、お酒が入ると酔いが酷いんだ。夜も押しが強いし……諦めてボクの代わりになってくれないか、オタクくん」


 いつもは、クルスさんが攻められる側だったらしい。

 助けてくれる人がいない。


「ほぉらぁー、お嬢さん? 襲っちゃうゾ?」


 リーシャさんが、ぼくをベッドに押し倒す。

 二人に着せられたキャミソールの中に手を這わされて、身体をいじくられる。


「だ、ダメですよ、リーシャさん。女性が好きなんでしょ? ぼくには『ついて』ますから」


「そんなの、クルスにだってついてるっしょ。可愛い美少女なら、気にしなーい!」


 ショーツを下げて実物を見せるも、逆に触られてしまった。

 そして、それを見たエイジャさんまでベッドに乗り上がってくる。


 ベッドの上を歩いて、座るぼくに対して、ショーツに包まれた大事な部分を押しつけてきた。


「わぷっ! えっ!?」


「舐めな」


 高圧的な態度で、エイジャさんはニヤリと笑っていた。

 ぼくの顔に、女性の匂いのする場所をぐりぐりと押しつけてくる。


「ふ、ふふ……『ついて』る奴が、あーしの言うままに、好き勝手されて……! うふふふ! 舐めな、舌を使って!」


 妖しい笑いが響く。何か、男性に対してコンプレックスがあるのかもしれない。

 再度強行されて、ぼくは一生懸命に舌を這わせた。


「あー、あー……止まらないな。……ボクのオタクくんが、あんなに酷い目に遭って……可哀想に、二人にめちゃくちゃにされちゃって……! あは、あははは……!」


 クルスさんも笑顔で息を荒げてるけど、ぼくはそれどころじゃない。

 結局、メチャクチャにされた。



*******



「ごめん、オタクくん」


 翌朝、三人は土下座していた。

 昨日は酷い目に遭いました。

 パーティに加わって早々の、あまりの扱いに、三人はさすがに謝ってくれた。


「ごめんね、オタクくん。あーし、ちょい男に恨みがあってさ……止まらなくて」


「ごめん、オタクくん。ウチ、美少女だと思うとどーしても……止まらなくて」


 ダメだこの二人。

 お酒のせいもあるだろうけど、歯止めが効かなさすぎて日常生活をどう送ってるのか心配だ。

 そのせいもあって、他人を遠ざけ気味だったり、パーティメンバーが補充できなかったりしてるのかもしれないけど。


「ごめん、オタクくん……きみを助けられなかった。普段は、ボクがああいう扱いを受けてて……いつも通り、ボクが二人を請け負うべきだった」


「い、いえ! 気にしないでください。ぼくも男ですし、ああいうのは良い思いなので、気にしませんから! クルスさんが無理する必要はないです!」


 そんなこと言われたら、文句も言えないよ。

 実際にぼくは女性に興味もあるし、ご褒美と言えないこともない。

 昨日のはさすがに、トラウマになりそうだったけど。


「クルスさんが無理をするくらいなら、ぼくを好き勝手してもらった方がちょうど良いです! ほ、ほら、男って、女性が好きなものでしょ?」


「オタクくん……」


 男だから大丈夫。そう言うと、クルスさんは気が安らいだようだった。

 少し心配そうにしてたのは、ぼくの無理してる空気が少し伝わったからかも知れないけど。


「その……オタクくんが気にしないなら、あーしらまた、昨夜みたいなことしちゃうと思うんだけど……」


「……良い?」


 二人が申し訳なさそうに、上目遣いで尋ねてくる。

 正直、ハードすぎてちょっとキツい。


 でも、ぼくがうんと言わなかったら、あれをクルスさんが一人で引受けるわけだ。それは負担が高すぎるだろう。

 ぼくはなるべく笑顔を作って答えた。引きつった笑顔だったかもだけど。


「き、気にしないでください。パーティの役に立てるなら、サポート役として引受けますから!」


 その瞬間、三人の目が光った。

 三人は顔を上げて、女物の下着姿のぼくに、詰め寄る。


「よろしくね、オタクくん。お世話になるから」


「よろしくね、オタクくん。あーしら、結構血の気多いからさ」


「よろしくね、オタクくん。ウチら、結構そういうの激しくて困ってるんだ」


 不安しか感じない三人の笑顔だった。

 ぼくの了承を得た三人は、嬉しそうに話し合っている。


「良かった良かった、オタクくんがパーティから抜けちゃうんじゃないかと、ヒヤヒヤしたよ!」


「あーし、男は苦手だけどさ。オタクくんなら気弱だし好きにできっから、パーティに置いといても良いよね!」


「オタクくんの顔、ウチ好みの美少女だしさ。あ、女装は絶対ね? じゃないと、ウチら警戒しちゃうからさ。オタクくんはこれからずっと女装のままでいること!」


 ぼくは男なのですが。

 大丈夫なのだろうか、このパーティ?



 とは言え、他に行く当てもないので、ぼくはしばらくこのまま、この女好きパーティに在籍することになりそうだ。


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