第7話 オタク、やりすぎる



 翌日、ギルドに行って仕事を探す。

 前世のハローワークと違って、こっちの依頼掲示板はすぐに受注できるのが手軽だ。

 余計な手間のないバイトアプリ、みたいな感じかな。


 その分日雇いで保証がないから、安定した収入を得るには休めないけど。

 とにかく数をこなして貯金を作らないと、良い仕事が毎日あるとは限らないからね。


「昨日の宿は結構無理したから、また、大量に狩れるような討伐系が良いかな」


「採取でも良いけど、素材が美味しい奴が良いですよね。……あんまりないなぁ」


 昨日みたいな美味しい仕事はなかった。

 そもそも素材の使える魔獣の大量発生、というのは件数が少ないんだよね。

 昨日のスパイクボアの群れ討伐は、一種のボーナスクエストだったとも言える。

 他のパーティも一緒に受注してたし。


 良い狩り場は、奪い合いになることが多いのだ。


「あ、採取の護衛がありますよ。錬金術師の素材集めの手伝いみたいです」


 良さそうな仕事があった。

 単価が高く、『女性がいるパーティ』限定、とのこと。

 たぶん女性の錬金術師なんだろうな。男性のみのパーティは自分が襲われる可能性があるので、避けたいんだろう。


「ああ、良いね。報酬も良い。……ただ、ここ、結構強い魔獣が出るよ?」


「大丈夫じゃね、クルス? 昨日の感じだと、強化してもらえば、かなり上位の魔獣でも狩れると思うし」


 エイジャさんは、昨日の戦いに手応えを感じたようだ。

 武器が攻撃範囲の広いデスサイズだから、強化すると相当に強力な範囲攻撃ができちゃうんだよな。


「護衛はウチがやるしー。エイジャとクルスで先導してくれれば、大丈夫じゃね?」


 リーシャさんも請け負ってくれる。

 リーシャさんはレンジの狭い格闘スタイルだから、むしろ個人の護衛には向いてるんだよね。


「良いですね。ぼくも近接戦闘がまったくできないわけじゃないですし。ぼくと依頼主の、後衛の護衛をリーシャさんにしてもらって……」


「あーしが前に出て、クルスがそのサポートすんのね。良いんじゃん?」


 文句はなさそうだった。

 というわけで、レイノルド爺さんに頼んで、この依頼を受けることになった。



*********



「あなたたちが『紅月』? ……女の子が多いのね。注文通りだわ、護衛よろしくね」


 依頼主のノアールさんは、やっぱり女性の錬金術師だった。

 小柄でローブ姿にメガネの、いかにも研究者、という感じの人だ。


「あなたがご依頼された、錬金術師のノアールさんですね。ボクらが『紅月』です。ボクがリーダーのクルス、メンバーのエイジャとリーシャと、オタクくんです」


「お、オタクくん……?」


 ちょっと、クルスさん。


「呼び名です。気にしないでそう呼んでください」


「あ、うん。そうなのね。女の子なのに、大変ね」


 男なんですけどね。

 メガネっ娘錬金術師のノアールさんは、この岩山にある鉱石を取りに行きたいそうだ。

 結構なレア鉱石らしく、魔獣の多い立ち入り禁止区域でしか見つかる見込みがない、とのこと。


「この岩山は普通に立ち入れるんだけどね。立ち入り禁止区域ってなると、崖の多い中腹以降かな」


「行けるでしょ? そのための護衛依頼なんだし」


 そういうわけで、岩山の山道をてくてく登っていくことになった。

 出てくる魔獣は一掃する。

 エイジャさんのデスサイズを『強化』すると、広範囲斬撃武器になる。


 アーマードベアやメタルライノなどの、金属甲殻系の魔物も一撃。

 その切れ味に、ノアールさんはびっくりしていた。


 クルスさんもサポートで攻撃しているけど、個人スキルで複数斬撃を飛ばせるみたいだ。

 それも強化してるんで、あやうく魔獣がみじん切りになりかけた。


 素材がもったいない。


「こ、こんなに強かったの、あなたたち……!? A級パーティ並みの強さじゃない!」


「ま、まー、ウチらに任しとけば、こんなもんっすよ!」


 リーシャさんが豊かな胸を張っている。

 少し声がうわずっているのは、この強化の威力を手に入れたのが昨日だからだろう。


「でも、元の火力が高くないと、強化してもそこまで強くはないですよ。『紅月』の自力あっての強さです」


「オタクくんさ、さっき、アーマードベアを素手で殴り飛ばしてなかった?」


 まぁ、自分も『強化』できますし。

 体術もそこそこ使えますけど、武器の扱いが苦手なんですよね。

 最大火力はエイジャさんやクルスさんには遠く及ばない。


 半目でにらんでくるリーシャさんをさておいて、そのまま中腹までやってくる。

 双頭の巨大トカゲ、オルトロスリザードか。

 このサイズだと、エイジャさんの武器じゃないと両方の首が切れないな。


「お、オルトロスリザードを一撃で……? 私、なにを見てるの……?」


 レールスは、胴体ごと一刀両断してたけどな。

 クルスさんの剣技も太い脚を丸ごと墜とせるんで、火力的には充分だろう。


 というわけで安全が確保できたので、岩場でお求めの鉱石を探す。

 魔獣が多いけど、エイジャさんとクルスさんがバスバス斬り裂いていた。


 近寄ってきた魔獣は、リーシャさんの拳が頭を粉砕して仕留めている。

 魔獣の掃除が終わったところで、ノアールさんが採掘を済ませたらしい。


「これよ! ルミナサイト! ありがとう、あなたたち!」


 ノアールさんは目的の素材を見つけて、大喜びだった。

 案外近くに落ちてて良かったよ。


 そのまま街まで帰って、護衛終了のサインをもらった。

 評価は満点。予定より早く終わったので、報奨金も少し上乗せしてくれた。


「ありがとう! これで、街の役に立つ薬が作れるわ! またよろしくね!」


 ノアールさんは、ご満悦のまま自分の研究室へと帰っていった。

 報奨金も受け取ったし、後は道中で狩った魔獣の素材を買い取ってもらうだけだ。


 レイノルド爺さんに連れられて解体室で魔獣の素材を出して、一息。

 いやー、山道はキツかったなー。


 と休んでいると、クルスさんに肩を掴まれた。


「……オタクくん、何をやらかしたの?」


 はい?

 何の話でしょう。

 振り向くと、エイジャさんとクルスさんが、心なしドン引いた顔をしていた。


「あまりにも魔獣が手応えなく斬れすぎるんだけど!? どんな強化をしたらこうなるの!?」


「オタクくん……デスサイズってさぁ、金属ってさぁ、フツーは岩とか鎧は斬れないんよ? わかってる?」


 そんなことを言われましても。

 木刀で金属のインゴットを切れるくらいには強化できますよ。

 強化魔法なんて、極めたら長い髪の毛一本で相手の剣も切断できちゃうし。


 説明に困っていると、レイノルド爺さんが呆れたような声で言った。



「……だから言ったろうが。そのオタク、世の中の誰よりも魔法の腕がすげぇんだよ。そいつみたいな桁外れな強化や回復、俺はこのギルドで他に見たことねぇ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る