第3話 オタクの力を見せるとき



「でさぁ、あーしらとしては、やっぱ『女』しかパーティにいないと思った方が、安心するわけよ」


「てーわけで、新しい服買ってきたからさ。これで過ごしてくんない、オタクくーん?」


 渡された服は、女性ものだった。

 しかもスカート。女性もののショーツまである。


「着ろと?」


「そー。これ着ねーと、うちらオタクくんのことキツく当たっちゃうからさ」


 パーティメンバーとしてそれは悲しいじゃん? と言われたので、渋々着ることになった。


「おおー! 似合ってんじゃん、オタクくん! 美少女だよ!?」


「やば、マジうちの好み……惚れそ」


 エイジャさんとリーシャさんが興奮している。

 言っても『女装』なんだけど。ぼくは男だよ。


 助けを求めてクルスさんを振り返ってみると、クルスさんも目を輝かせていた。


「すごいよ、オタクくん! 似合ってる、可愛いよ! ずっとパーティにいてよ!」


 本気の感想だった。

 確かに女顔とは言われたことがあるけど。

 ここまで女装を褒めそやされても、微妙な感情しかわいてこない。


「せっかくだし、メイクしね?」


「良いねー、うちの化粧道具使うわ。……やば、マジ美少女」


 さっさかと軽い化粧までされてしまった。

 もはやぼくの原型なんてどこにも残ってない。


「良いんじゃないかな。ボクらのパーティ、人付き合いが悪くて嫌われてるから。だから後衛もいなかったんだ。……オタクくんも、変装していた方が評判が落ちなくて済むよ」


 あー、事情的に他の人とあまり話せないんですね。

 ぼくのことを気遣ってくれるクルスさんだけが心の支えだ。

 やっぱりこの人、イケメンだなぁ。心は美女だけど。


「オタクくん、ミニスカート似合うよ! ローブ着てればマジ美少女!」


「気は済みましたかねぇ?」


 怒りに震えそうになるけど、これでパーティに所属できるなら仕方ない。

 女もののスカートを履いて、女物の下着をはいて『似合う』といわれても。

 泣きそうだ。何が美少女だ。


「これでオタクくん守れっかなー。――あーしらビッチと思われてっからさ。オタクくん、男の格好のままだと絡まれると思うんだよね」


「そーそー。ウチらとやってんだろ、って。ちょっと話しただけの男の新人冒険者が前に絡まれてたからさ。これでオタクくんの身は安全だ!」


 エイジャさんとリーシャさんは、そう言ってニカッと笑った。

 ぼくの……ため?


 美女に囲まれてやっかんでくる粗雑な男冒険者から、ぼくを守るためだったらしい。

 この人たち、もしかして良い人なのか?


「あ、ありがとうございます……?」


「気にすんなし! ウチらのパーティメンバーじゃーん! 後衛は任せっからね、ちゃんとしてよ、オタクくん!」


 そう言って明るく笑うリーシャさん。

 褐色美女のエイジャさんも、上機嫌にぼくの背中をバンバン叩いてきた。


「よし。じゃあ、軽く討伐依頼でも受けようか? オタクくんのスキルと、ボクらの連携も確かめたいしね!」


 クルスさんがリーダーらしく提案した。

 確かに、ぼくはまだ何も実力を見せていない。

 ぼくに何ができるか、みんなが知らないと、これからの冒険者活動も難しいだろう。


「行っか行っか! オタクくんの歓迎会だー!」


「一狩り行くっきゃないよね!」


 エイジャさんとリーシャさんもノリノリで、ギルドに討伐依頼を探しに行くことになった。



**********



「じゃあ、スパイクボアの群れを討伐するよ!」


 クルスさんに連れられて行ったのは、街の近くの草原。

 森も近いので、スパイクボアというイノシシ型の魔獣があふれ出してきてるそうだ。

 もう視界のそこらにスパイクボアがうようよしてる。


「クルスさんは剣ですけど、エイジャさんとリーシャさんは、何で戦うんです?」


 二人とも露出の高い戦士系の服装だし、前衛だって言うから武器攻撃なんだろうけど。

 二人とも、ギルドの時から武器を携帯していない。

 手ぶらだ。


「オタクくん、あーしらの武器見てないかー。あーしはこれ」


「うちはこれかなー。蒸れるから、普段はつけてないけど」


 そう言って、二人は何もない空間からそれぞれの武器を取り出した。

 アイテムボックス! 二人ともアイテムボックス持ちなのか。


 褐色肌のエイジャさんは、巨大な大鎌。

 物語の死神が持ってるようなデスサイズだ。身長以上の巨大さがある。


 白色肌のリーシャさんが取り出したのは、籠手と脚甲。

 どうやら、拳で殴る肉弾戦タイプのようだ。


「じゃあ、いつも通りにエイジャが大雑把に狩って、リーシャが近寄って仕留める。ぼくはそのサポートね。……オタクくんは、まずはボクらの連携を見ててね」


「任せろし! ウチらの勇姿、見てなよオタクくん!」


 リーシャさんが張り切って籠手のついた両拳をガツンと打ち鳴らす。

 気のせいか、リーシャさんがぼくの女装を見る目が熱い。


「いっくぞぉぉ――ッ!」


「負けないっしょ、エイジャには!」


 スパイクボアの群れに突撃していく二人。

 大鎌を振るって二匹のスパイクボアをまとめて薙ぎ払ったり。

 その隙間をついて突進してきたボアに距離を詰めて、殴り倒したりしていた。


「なんというか……豪快ですね、二人とも」


「そうだろ? 実際、火力だけはあるんだよ、ボクらのパーティ」


 クルスさんが苦笑していた。

 この直戦闘力の高さのせいで接近戦が増え、回避や回復が間に合わないらしい。

 だから、回復薬の購入などのせいでお金が貯まらないんだとか。


 それで、回復役の後衛を欲しがっていたのか。

 実際、リーシャさんは手甲での防御力は高いけど、エイジャさんのデスサイズは両手が塞がる上に小回りが利かないので、危ない場面も多い。


「あ、エイジャさんがケガした。リーシャさんが気を取られて突進受けてる」


「……! これが、ボクらのパーティの弱点なんだよ。防御力が低い。ボクも行ってくる!」


 クルスさんが剣を手に、サポートに向かおうとする。

 その横で、ぼくは遠方の二人に向けて回復魔法を発動した。


「――『プラスヒール』。『ファーストエイド』」


 二人の傷が塞がった。

 二人もそれに気づいたらしく、すぐに立ち上がって戦線復帰した。


 その様子を見たクルスさんが、驚いたようにぼくを見てくる。


「な、何をしたの、オタクくん……?」


「回復です。ケガしてたので」


 ぼくが説明すると、クルスさんは絶句した。


「……こ、この距離で!? そんなの無理だよ、魔法ってのは、もっと近くで発動するもので!」


「え? いや、それは熟練度が低い場合です。世間にはあまり知られてないけど、この距離でも充分に回復できますし、強化できます。――『マキシムブレイク』『ウィンドクイック』。……ほら」


 二人の破壊力と動きが、明らかに変わった。

 エイジャさんのデスサイズは一振りで数頭のスパイクボアと、ついでに触れた岩を両断した。

 リーシャさんの拳も、一発撃ち込んだだけでスパイクボアを爆発四散させている。



 威力強化とスピード強化の魔法だけど、やっぱり発動するね。


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