個人的反生成AI宣言

古蔦蘆越嶁

個人的反生成AI宣言


noteに投稿した拙記事をそのまま転載したものである。



 太古より「美」と共に在った人間の歴史は、技術の加速的進歩によって益々豊かになるように思われた。が、実際にはそうではなかった。病的かつ狂気的なこの澆季に於いて、少なくとも「美」の創造者としての人間に、もはや「明るい」未来など存在しないことを、しかと自覚せねばなるまい──というのは、人間を人間たらしめてきた「美」を、今まさに我々は喪失、否、自らの手によって我々を依存者或は受動的存在への変容に誘う恐るべき瘴気を放つ底無し沼に抛棄せんとしているからである。


 底無し沼──すなわち生成AIだけが問題である訳ではない。生成AIは技術の進歩の帰結として誕生したものであって、正直に言えば内心苦々しく思ってはいるが、これ自体を完全に否定するつもりはない(第一、否定したところで生成AIを完全に排除できる訳はない)。此処では例えばマトリックスだとかターミネーターだとか、そういうAIに支配される未来への危機感を表明したいのではなく(まあ、そんな未来は御免蒙りたいものではあるが)、私が問題としているのは生成AIに対する人間の付き合い方である。

 それなりの知恵はあるが、神にはなりきれぬ我々毛無しザルは、自らの能力を凌駕する存在に頼ってしまうものである。これ自体は、意志の弱い我々であるので仕方のないことではあるかも知れないが、それによって「苦しみ」を経ることなく何か極めて歪な「美」の劣化版(こういう言い方は宜しくないのかもしれないが)を生み出すとするのならば、話は別である。果たして、「美」(なお、趣旨がずれるが、ディープフェイクの問題を念頭に置くのならば「真実」に置き換えてもよい)より何らの感動を経ることなく、あたかも機械化された工場での作業の如く無機的にその要素を抽出し、それによって生じた大量の「美」の劣化版によって「美」を埋没せしめることは、許されるのか?

 

 この電網を見よ! アニメ的なイラストであれ、写真的なイラストであれ、それなりに絵・写真らしくはあるが、妙に極彩色の毒を孕み、何か深刻な欠落を抱えた画像が氾濫している! 目を転ずれば、恥ずかしげもなく生成AIによって生成された詩──詩というものは感情を言葉に変換せんとする人間自身の意志により、瞬間的な意欲や羞恥、そして時間による研磨を経て初めて生まれ出るものではなかったのか──を公開する者も居る! 挙句には「プロンプト」の語を「描く」の語に置き換える者や、生成AIによる生成の事実をわざわざ隠して「作品」を公開する者まで出て来る始末(人間としての誇りは無いのか?)。

 一部の反生成AI派の如く、狂ったようにこれを糾弾するつもりはないが──一部の反生成AI派は、生成AI推進派や反生成AI派の反動としての反反生成AI派と同程度にはロクでもないことを自覚すべきであろうとすら思ってはいる──少なくとも私は、この「美」の黄昏の時代に、著作権とかそういう問題(それはそれで重要な問題ではあろうが)以前に、遅くとも旧石器時代より続く「美」の創造者としての人間の歴史に自ら終止符を打ってしまって良いのか、と強く思うのである(なお、生成AIは、例えば絵筆のような道具に過ぎず、「美」の創造の主体はあくまで人間にある、という意見もあるかも知れないが、私はこの見解は根本的におかしなものと考える)。


 確かに想像をいとも容易くそのまま具現化する生成AIは、まさに革命的な存在ではあろう。そして生成AIで何を生成しようが、究極的には諸人の勝手であって私にこれを止める権利はない(そんなことをやったとて反発を食らうだけであろう)。しかし、このような時代であるからこそ、敢えて生成AIに関する一個人の考えを電網上で表明しておくのである。


 粋がり青二才、頑迷なる反生成AI主義者の妄言と捉えて頂いても構わないが、長田弘の「最初の質問」の「時代は言葉をないがしろにしている。あなたは言葉を信じていますか。」という詩句を胸に刻みつつ、あくまで私は「美」の創造者としての人間を志向する所存である。

 「美」のヘゲモニーはあくまで創造主体としての人間が、これを保持しなければならない!








観念からなる圧倒的構造物は

住み慣れたこの迷宮は

その不安定の先端に

全く新しい光源を生み出した


飽和したこの結晶は

あの先端にて産まれ落下してきたもの

数多の心象がそのままに具現化され

或日の雪の如く涔涔と──


相変わらず光源は稼働している

常夏の夢を迷宮の住民に与えるために

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個人的反生成AI宣言 古蔦蘆越嶁 @frztys_wcr

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