第2話 メダカ

ボクの家の外には、小さな庭がある。


今日もボクは、学校から帰ったらランドセルと登下校の帽子を玄関に置いて、外へ出る。

風は少し涼しくなったけど、やっぱり日向は暑いや。

だけど庭には、半分くらいカーポートの影が掛かっているから大丈夫さ。




ボクは三つのプランターを順番に眺めて、その奥にある、メダカ達がいるプラスチックコンテナを覗く。


「メダカ達、今日も元気かな?」


ボクが近付くと、水面に見えていた小さな小さな魚影が素早く移動して、水面に浮かんだホテイ草の影に隠れてしまった。

メダカ達は、いつもこうしてサッと逃げちゃうんだ。


ボクがじっと動かずに待っていたら、一匹、二匹と影から出てくる。

すぐ出てくる子もいれば、出てこない子もいる。

ボクはずっとずっと待っているんだけど、六匹しか出てこない。

メダカは全部で八匹いるはずなのに。



突然、出てきていたメダカが揃ってホテイ草の影に戻ってしまった。


「帽子くらい被ったら」


いつの間にか出てきていたママが、ボクのお気に入りの野球帽を被せてくれた。

そうか、メダカ達はママに驚いたんだ。


「ねぇ、ママ。メダカ達、ずっと待ってても全部出てきてくれないんだ」

「ゆうくんが近くに来たから、警戒してるんじゃない?」

「ボク、怖いことなんてしないよ?」

「う〜ん、ママはゆうくんが怖いことしないって分かるけど、メダカ達には分からないかもしれないわ」


ボクがググッと唇を突き出すと、ママは「あらあら」と笑う。


「ボク怖くないのに……、どうして分かってくれないのかな」

「そうね、でも怖いか怖くないかを判断するのは、ゆうくんじゃなくて、メダカ達よね。ほら、ママは夜一人でトイレ行くの怖くないと思うけど、ゆうくんは怖いんでしょ?」


夜のトイレに向かう暗い廊下を思い出して、ボクは唇を引っ込め、ギュッと両手を握る。

だって、オバケが出てきそうで怖いんだ。



「そっか、そういうことか」



ボクの怖い理由は、ボクのもの。

メダカの怖い理由も、メダカのもの。

なんで分かってくれないのって拗ねても、仕方ないんだな。




「今日は暑いわね。ゆうくん、アイス食べない?」

「食べる!」


ボクはメダカを驚かさないように、そうっと立ち上がる。

離れると、影からスイと一匹出てきた。



「スイスイ、メダカ。また明日」



いつか、ボクが怖くない友達だって、分かってくれたらいいな。




《 つづく 》

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