起きた時にはもうすでに終わっていました カヤ視点①
最後に見たのは、いったい何だったのだろう。
あの美しくも恐ろしい神が、歪んで見えた。
目を開けていたはずなのに、周りは光と音で満ちていて、もう何も見えなかった。
そのとき――私の腕をつかんだのは、少し見た目が怖いけど、優しい声をした女性。
カノン様。
彼女に引かれるまま、私は岩の陰に身を隠した。
何が起きているのかわからない。
ただ、耳に響く轟音を聞いているしかなかった。
どうして神様は怒ったのだろう。
あの神――アラハバキ様。
最初に見たときは、静かでどこか妖しいけれど、優しげな神様だと思った。
でも次の瞬間、まるで炎のように怒り狂った。
アテルイ様とカノン様は、何かに気づいていたみたいだったけど、
私にはわからなかった。
ただ、恐ろしくて、足が動かなかった。
……本当に、私は不幸だ。
神の生贄に選ばれるなんて、どうして私なの。
一瞬でも――あの神様の顔を「美しい」なんて思ったのが、間違いだった。
その罰みたいに、いつ死ぬかもわからない恐怖が私を締めつけた。
時おり響く轟音に、身体が勝手に震えた。
気がついた時には、もう意識が遠のいていた。
世界が揺れて、音も、光も、全部が遠ざかっていく。
そして次に目を覚ましたとき、そこには――静寂しかなかった。
ゆっくり顔を上げる。
真っ暗な空間。
聞こえるのは潮風の音だけ。
見渡しても、誰の姿もない。
ふと、雲の切れ間から月明かりが差した。
その瞬間、私は息をのんだ。
周りの岩は砕け、柱は倒れ、あたり一面に血しぶきが飛び散っていた。
風に混じって鉄の匂いがする。
たまに、肉片のようなものもそこかしこに転がっている。
こんなのは、たまに来る嵐でさえあり得ない。
巨岩は押し潰されたように割れ、海の方まで転がり落ちている。
その表面には――糸のようなものが絡みついていた。
けれど、それも途中でちぎれている。
まるで、地獄絵図だった。
私は息をするのも怖くなって、ただその場に立ち尽くした。
血のにおいと潮のにおいが混じり合い、頭がぼうっとする。
そして、また――暗くなった。
目を開けているのに、何も見えない。
潮の音だけが、かすかに耳に届く。
ざざーん……
ざざーん……
波の音だけが、世界のすべてだった。
生き物の気配はどこにもない。
風も、声も、光もない。
私は歩くこともできず、ただそこに沈むように座り込んだ。
……その時だった。
遠くで、誰かがしゃべっている声が聞こえた。
とても小さく、けれど確かに人の声。
それが夢の中の囁きなのか、現実の声なのか、私にはもう分からなかった。
私は怖くて、しばらく立ちすくんでいた。
けれど、やがて周りが少し明るみを帯びたとき、遠くから聞き覚えのある声が届いた。
――もしや、アテルイ様とカノン様?
恐怖を押し殺し、寂しさに耐えられず、私は叫んだ。
この場所に私だけがいるなんて、気が狂いそうだ。
「あっ、アテルイ様~! カノン様~!」
半分泣き顔のまま、私は声の方へ駆け出した。
そして、ようやく人影を見た。
けれど――それは、私が思っていた人物とは違っていた。
先ほどの地獄のような光景が脳裏に蘇り、私はまたそこで意識を失ってしまった。
ああ、なんと弱い体なのだろう。
たまにタヌキが驚くと気絶してしまうと聞いて、昔は笑っていた。
でも今なら、その気持ちがわかる。
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