光の記憶 エピローグ 響きの底

 印刷された最後の写真に、湊はキャプションを添えた。


> 波紋が消えるとき、

> そこに残るのは静けさだけ。

> けれど、その底にもまだ息がある。


 ページのタイトルは「響きの底」。


 澪は言った。

 「この写真集は、父と母の愛の物語だ」


 けれど、それだけではない。


 誠が最後に描こうとしたのは、終焉だった。

 いや――終焉を書かざるを得なかったのだ。

 理音と再び会えることはないと悟っていたから。


 だからこそ、彼は「終わり」を書き、消し、また書き直した。

 終焉で閉じるしかないと分かりながらも、どこかで引っかかっていた。

 ――もしかしたら、まだ続きがあるのではないか、と。


 その引っかかりこそが、澪の存在だったのかもしれない。

 理音が去るとき、誠は気づいていたのだろう。

 お腹に宿った命に。

 確信はなくとも、消せない予感として。


 光が記憶を繋ぎ、物語は静かに幕を閉じる。

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レンズの向こうに 62 @toshi62

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