第17話 瞬殺の不死者さん、気付く
「——ふんっ、ここが野盗のアジトがある森か」
俺は極普通の……それこそどこにでもありそうな森を眺めながら、鼻を鳴らす。
なんでこんな何の変哲もない所に……と思ったが、ありふれているからこそ野盗にとっては最高の隠れ家だったのだと気付く。頭良いなおい。ファンタジー作品だったら野盗なんてアホっぽい奴らばっかじゃない?
「……いや、頭が良くないと野盗として生きていけないのか。生きるためにも捕まらないためにも」
そこら辺はファンタジーであれよな、と思わないこともないけど……まぁファンタジー世界って言っても現実だししゃーないよな。
夢のない世界だ、と思考を追い払うように頭を振って森の中に入る。
まるで水面に反射するようにキラキラと木漏れ日が差す光景に、つい懐かしさを感じた。
因みにエルフィリスとクラリスは別行動だ。
彼女たちには村長宅に行ってもらっている。時短だ時短。
あとはエルフィリスにクラリスの護衛もお願いしている。彼女が側にいるなら世界でもトップクラスのセキュリティだ。俺もそっちが良かった。切実に。
「……そろそろか」
どうせ俺は気配を消す方法なんざ分からない。
なら、いつでも奇襲されてもいいように魔力を操作、《身体強化》しておく。
淡い魔力に包まれる温かな感覚、力が湧き上がる感覚には何度やっても慣れない。
俺はアジトへと歩みを進めながら、腰に携えた剣の柄を撫でた——その時だった。
「——いきなりとんでもない気配が現れたかと思えば……ガキじゃねぇか」
そんな声と共に、木の後ろから一人の男が現れた。
見た目はまんま野盗って感じの粗暴な男。
とはいえ体格が特段良いとかではない——が、個としてはガリバードより危険な匂いがした。……なんだよ個としての危険な匂いって。自分で言って意味分からん。
「……貴様が野盗か?」
「まぁな。つーか見りゃ分かんだろ、野盗っぽい恰好してんだからよぉ」
「……そうか」
粗暴な口調で。されど余裕といわんかりに悠然と両腕を広げる野盗。
一応ハイモンドはそこらの騎士にも完封できるくらい強いので、野盗共に負ける筋合いなど一切ないのだが……。
……なんだろう、嫌な予感がする。
しかもその嫌な予感は結構馬鹿に出来ない。
無駄に高いステータスの恩恵か、転生してから第六感というものが発達した気がするのだ。
「……悪いが、貴様らにはここで死んでもらう」
「ガハハッ、まるでテメェの方が悪者みてぇだな」
「貴様らにとっては悪者だろうな。商売を邪魔する敵ってヤツか」
「…………」
野盗の表情が消えた。
見る目が迷い込んだガキや正義感に燃えたガキから、自らの生業を知る謎のガキに変わったわけだ。
まぁでもハイモンドの身体だから、それこそ魔法をポンポン撃たれない限り——
「——撃て!!」
「「——《水刃》!!」」
「「——《風刃》!!」」
——ぴゃあああああああああっっ!!
「——ガハハハハハハッ! さっきまでの威勢はどうした!」
「うるさい、黙ってろ!!」
俺は木を利用して魔法を避けつつ、なんとか囲まれないように走り回っていた。
後ろには笑い声と共に心底面白がっている野盗の姿——うおっ!?
生きているかの如くうねる水の鞭を屈んで避け、木の裏に隠れる。
聞いてない、いや本当に聞いてない! 誰が魔法使いが四人いるなんてさぁ!
相性最悪もいいところだ。エルフィリスを連れてくれば良かった。
乱れた息を整えつつ、スレッドを開く。
そこからガチガチニキから貰った情報を確認…………書いてあるやないか。
「思いっ切り書いてあるじゃないかッッ!!」
「叫ぶとは馬鹿な奴だなぁ!」
「ちぃっ!!」
嫌な予感がして咄嗟に駆け出せば——『パァァァン!!』という破裂音と同時についさっき俺がいた木の幹が砕け散る。
両腕でも足りないほどの太さを誇った木の幹が、だ。
……当たったら即死よなぁ……。
俺のカス魔防値では、耐えられるどころか身体が爆散して終わりな気しかしない。身体の輪郭が残っていたらまだいい方だろう。
自らの命を一瞬で奪うであろう一撃を前に、思わず背筋の凍る感覚に陥る。ぶるっと身体が震えた。
くそっ、なんでちゃんと確認しなかったんだよ俺……! どう考えても一番見落としたらいけないとこじゃん! 寧ろなんでピンポイントでそこ見忘れてんだよ! どんな確率だよ!
とはいえ後悔したところでもう遅いのだ。そんなことに思考を割くよりもっと建設的なことを考えるとしよう。考えてないと自分の馬鹿さに萎えそうになるから。
まずは現状把握といこう。
相手は魔法使い四人と、武器を携帯した野盗が俺と話していた奴を含めて七人。その内の武器携帯の奴らは、恐らくハイモンドのステータスと再生力でなんとかなる。
問題は魔法使い。
ガリバードは分身だったから単調で避けやすかったが……今回は違う。水の鞭とか軌道分かりづらすぎてちょーうざい。——が、即死級の威力を持つ魔法と急所さえ気を付けておけば死なないはずだ。
さっきからずっと観察しているが、今のところ即死級の魔法は木の幹を吹き飛ばしたヤツのみ。
しかし、だ。
この程度の相手にビビってたら、エルフィリスを相手に出来るわけがない。
幾ら魔法を使っていようとも、エルフィリスの通常攻撃の方が遥かに威力が高いに決まっている。相手は数百年生きてて、なおかつ王国最強だぞ。
……そうだよ、何ビビってんだよ。こんくらいどうってことないだろ。
俺は、ハイモンド・ルクサス。
王城に凸り、数多の騎士たちの手を逃れて陛下の下に辿り着き、果てにはガリバードに飛び蹴りをかました男。ついでに強制厨二病によって精神的大ダメージをも受けている男でもある。
あれらに比べれば、今の状況など可愛いもんだ。寧ろ一体どこにこの状況を恐れる要素がある。
「……ん? おいおいどうした? まさか降参って言わねぇよなぁ?」
俺と話していた野盗……恐らくボスが、隠れるのを止めて出てきた俺に対して加虐的な笑みを浮かべる。
ただ奴だけでなく、他の仲間たちもまだまだイジメ足りない、といわんばかりに笑っていた。
だが——それも今の内だ。
「ククッ、クククッ……ハハハハハハハハ!」
「あ゛? テメェ何笑ってやがる? この状況が理解出来てねぇのか?」
俺は己を鼓舞するように、恐怖を押さえるように高笑いを上げながら——ビシッとボスを指差した。
「——今から貴様らは俺の練習台だ。この身体に慣れる……いや使い熟すために動くだけの木偶人形だ」
ニヤッと獰猛に嗤って腹から声を出して宣言する。
当然、さっきまで逃げ回っていたガキに練習台……木偶人形と言われれば、ただでさえ感情で生きている奴らが怒りを抑えられるわけがない。
「クソガキがァァァ……ッ! 俺様に舐めた口聞いてんじゃねぇぞ……ッッ!! ——テメェらやっちまえ!!」
ボスが怒りの号令を出す。
同時に、前方から四つの魔法が飛んできた。
水・風・風・土、か……。森なだけに流石に火は使ってこないな。
俺としてはとても有り難い。
何せ火属性は魔法でも威力に特化した魔法だ。さらに掠るだけで火傷になるもあって面倒極まりない。あとめっちゃ痛いし。
強化された脳や目故か。酷く緩慢に流れる世界の中で俺はそんな思考を巡らせつつ、腰の剣を引き抜く。
その動作の一環で自らの身体に纏わせたように、剣にも魔力を纏わせると。
「——ふッ!!」
不可視の風の刃を最小限の動きで避ける。
続けて水の鞭を剣で薙ぎ払い——つむじ風に突っ込んだ。全身をカッターで切られるような痛みに襲われて顔を歪める。
「ぐぅッ……!!」
「アヒャヒャ、アイツ馬鹿ですぜボ……ス…………ッ!?」
始めこそ馬鹿にするように笑っていた魔法使いだったが……血が飛び散る度にスッと傷が消えていることに気付き、言葉を失う。
オマケに俺が飛び込んだことで、自らの魔法が飛来する岩を減速させていることに気付いて唖然とした表情を浮かべる。
なるほどな……めっちゃ痛いけどこの程度なら一瞬で再生すんのか。めっちゃ痛いけど!
内心痛みで泣きそうである。温室育ちの純日本人を舐めるなよ。
だが同時に、この程度の魔法なら、カスみたいな魔防でも全く問題ないことを知った俺は興奮を覚えていた。笑いが止まらないとはこのことだ。
「ハハハ……ッ、ハハハハハハハハッ!!」
「くッ——魔法使いは俺様たちの援護に回れ! 行くぞテメェら!」
「「「「「「へ、へい!!」」」」」」
魔法を斬り裂き、避け、当たってもピンピンしている俺の姿に苦渋の顔をしたボスが子分たちと共に飛び込んでくる。
一番早く辿り着いたのは、もちろんボス。
「死ね、クソガキィィィィィ!!」
ボスが両手に持つ二本の短剣を俺の心臓と喉目掛けて突き出す。
俺は喉に迫る短剣を剣を持たない手で打ち払い、心臓部分は自慢のステータスと《身体強化》で受け止める。
——ガキンッッ!!
「なっ!?」
短剣は金属にぶつかったかのように硬質な音と共に弾かれる。
俺は弾かれたことに目を見開くボス目掛け——
「——精々楽しませろ、クソ野郎ッッ!!」
渾身のパンチを叩き込んだ。
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