第29話『全部、俺のもんだー!!!』


 メルヘンリンクの登場に、ジャランと杖を鳴らし、赤い光を乱舞させる化け物の長。


『◎×!!』

「そう来やがったか!!」


 ヒデーヤには、相手が『抹殺』とただ一言命じた事がはっきりと判った。それはナナナも同じ事。一斉に動くオーガたち。

 囚われの人々は、正に救世主が来たと一斉に声を挙げた。嬉々として。


「「「「「助けてー!!」」」」」

「へっ!! 死ね!!」

「「「「「うっわあー!!? な、なんでーっ!!?」」」」」


 喜びの声は、一瞬で悲痛な絶望へと塗り直される。

 その返事とばかりに剣圧を飛ばすヒデーヤは、嬉々として仲間に命じた。


「騙されんな!! ありゃ、ああやって俺たちを騙すバケモンだぞ!!」

「わ、わかったー!!」

「応さ!! 判ってるって!!」


 たちまち数人が血を吹き倒れ伏す。それでも逃げようと動く者たちを、人の姿をしたオーガだろう人たちが逃がすまいと組み付いた。そして、化け物の本性そのままのオーガたちは、手に手に武器を振りかざして突っ込んでいく。そこへ、三人は次々と検圧を飛ばした。

 戦士のスキルだ。衝撃波が次々と襲うが、それはオーガたちも同じ事。


「散れ!!」


 一緒に居ると、集中攻撃を受けてしまう。そうなれば多勢に無勢。そう判断したヒデーヤたちは、三方に散った。

 次々と襲い来る衝撃波を避け、林立する石柱を盾に狙いを散らす。その様は、流石ベテラン冒険者と言ったところだ。

 そんな様を、プリムはハラハラと、そしてナナナはニヤニヤと微笑んで眺めていた。


「ちゃ~んす」


 この騒ぎを幸いと、ナナナは魔導バイクのエンジンに火を入れる。


「んじゃ、頼んだよ」

「ううう……が、がむばりましゅ……」

「ははっ、じゃ、いくぜいくぜーっ!!」


 とほほなプリムを尻目に、バイクで走り出すナナナ。一瞬、車体をオーガの群れへと向けるや、車体装備のグレネードを打ち込んだ。


 ひゅるるる~、ちゅどーん!!


 唐突に爆炎がオーガどもの一部を巻き込むが、全体からすると微々たるもの。それでも、人々とオーガの群れとの間に滑り込むや、ライフルを一発。キンっと金属音を鳴らし、赤く光る杖を弾き飛ばした。


「はん!! 悪ぃな、くそ冒険者ども!! お宝は、あたしがいただくわ!!」

「んだと、こらあっ!! てめぇいつの間にっ!!?」

「あっはっはっは!! あんたらは、そのくそオーガ共の相手がお似合いだわ!! くそはくそ同士、仲良くお遊戯してな!!」

「ふっざけんなー!! 全部、俺のもんだーっ!!!」


 慌てて前へ飛び出して来るヒデーヤを嘲笑し、くるくるバイクをローリングさせたナナナは、弾き飛ばした杖の方へ走らせる。

 もう充分に注目を集めた。その確信は見事的中する。

 ナナナの行く手を阻もうとする、人に化けたオーガたち。そして、弾かれた杖を回収しようと動く、これまた人に化けたであろうオーガたち。更には、取り残されたケガ人を抱えた、連れて来られたであろう人々。


「ははっ!! 轢き逃げ、アターック!!!」


 人に化けたオーガ共を弾き飛ばし、ナナナは赤石光る錫杖へと肉薄し、それを更に奥へと弾き飛ばす。

 カランカランと乾いた音を発て、クルクル回っては不気味な赤い光を放ち続ける錫杖。化け物たちの関心は、否応にもそれに集中してしまう。


『△■*@%!!!』

「このくそアマー!!」

「はん! おせーよ!!」


 フードをまくり、ナナナは素顔をさらす。その陰に隠れていた小型のマギスフィアが稼働する。そして、ちらり。プリムが隠れているだろう柱をちら見した。


 プリムは走った。おぼつかない足取りで。

 あまりの緊張に、転がりそうになり。足が何が柔らかい物を踏んづけた感触。ハッと思わず目を奪われた。それは、犠牲者たちの残骸。食い荒らされた身体の一部など。そこら辺に散らばっている。部屋に満ちた異臭の原因はこれだ。

 思わず胸を打たれたプリムは、立ち止まりかけてしまった。その残骸の中に……


「お、兄さん……」


 嫌な予感が的中してしまった。

 ジュース売りのお兄さんが、それと判る変わり果てた姿で、その中に転がっていたのだ。


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