第23話『プリムを探せ』


 カツカツと足早に歩く度に、黒い貫頭衣がさわわと大気をはらんでたなびき、左右脇のスリットからホルスターに収まった黒光りする銃身が揺らいで見えた。

 シーン第二神殿の暴力シスター、SMC-777ことナナナは眼光も鋭く、第二神殿の聖堂に足を踏み入れると、肩に担いだ荷物をどさりと降ろし、周囲を隈なく見渡し、小さく舌打ち。

 すくっと両手を高らかに掲げた。


「皆さ~ん。誰かプリムちゃんを見ませんでしたか~?」


 打って変わった、少し間の抜けたのんびりとした口調で、がばちょっと声をかける。

 すると、小さな子供たちが五六人、わらわらと寄って来た。

 これが日頃の餌付けの効果だ。


「「「「「わ~!」」」」」

「よ~しよしよし。よ~しよしよし」


 ちびっこたちを出迎えるナナナは、目線をそろえる為に腰を落とす。ガツンとライフルの銃口が床を叩くが、そんな事はお構いなし。わしゃわしゃとぼさぼさ虱頭の青鼻たれた子供らをかいぐりかいぐり。

 お供え物のおさがり目当ての、貧民街の悪ガキどもだ。ま、その中でもまだましな方の。もう少し悪くなると、盗みやかっぱらいの下働きになって、大きくなればなったで盗みや強盗、冒険者みたいな荒くれ物へと変貌する。逆に、貧民街の子供とて神殿に出入りするくらいなら、そこで文字を習ったり、そのまま神殿に入ったり、神殿のお墨付きで何らかの職工へ徒弟としてあがる事も不可能ではない。

 ただ、これくらいの小さな子にとって、そんな先の事はどうでも良い。まずは目先の事。彼らは常にとてもお腹がすいているのだ。


「よ~し、ちょっと待ってろよ~」


 きゅきゅっと全員の視線が、ナナナの手の動きを追いかける。ごくり、生唾を呑む音も。

 そして、懐から包みを取り出す。まだ暖かな、タイガー屋の饅頭だ。貫頭衣を結ぶ腰紐の上に忍ばせていたので、ナナナのお腹もまだほっかほかしている。

 包みを開くと、しましま模様と虎の焼き印一瞬見えた。

 そこへ、わっと小さな手が伸びて、またも一瞬で消え去った。


「「「「「わーい!」」」」」

「こらこら。一人一個ずつだぞ~」


 言うだけ無駄だと判っていても、左右両手に一個ずつぐっちゃりと握ったそれを一心不乱にむさぼり食う様には、もう苦笑するしかない。

 不思議な事に、作られた人間であるルーンフォークながらも、自分より小さな個体を守りたいという気持ちが無くも無い事を自覚している。それが、プリムに向けた想いでもあるのかどうか定かでは無いが。

 ちなみに、小柄なプリムは「ちゃん」付けで子供らの中でも呼ばれていた。


「ねえ。誰かプリムちゃんが帰って来たか、見てない?」

「んんんんー!」


 改めて問いかけると、あんこでべたべたになった幾つもの小さな手が、神殿の奥の方を指さしたので、ナナナはホッと胸を撫でおろした。

 買い物を済ませてジュース屋に迎えに行ったら、そこにはいなくて、店主に何度か問いかけても要領を得ない答えしか返って来なかったから。

 もしかしたら、人さらいに……なんて思うと、居てもたっても居られなかった。

 何しろ、変態はどこにでも居る。

 小さな子供を家に連れ込んで監禁し、悪戯するなんて良くある事なのだから。



 ◇ ◇ ◇



 ちびっこらの指さした先、聖堂の裏へ抜け、中庭に面した廊下をナナナがそそくさと歩いていると、ふと違和感を覚えた。

 中庭には草花が咲き乱れ、青々とした葉が風にさわさわとそよいでいる。そんな植え込みの中に、何だか勢いの無さそうな、ぺたんとしおれた淡い薄桃色の花がちょこ~んと。


「ん、ん~?」


 あんなとこに、あんな花、あったかしら?

 金属の如雨露を手に、噴水に歩み寄るとじょぼじょぼ水を汲みながら、そちらの方を眺めていると、何となく判ってしまった。

 そして、そおっと忍び足。

 元気の無いお花に、お水をあげましょう。にんまり笑いながら、気付かれない様にそおっと如雨露を掲げ持って……


 とぽぽぽぽぽ~


「ひゃい!!?」


 狙い違わず百発百中とばかりに、植え込みで膝を抱えてたプリムの頭、しおれた桜草の群生にた~っぷり注ぎ込んで差し上げた。


 おほほほほ~。


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