第15話『新たな夜明け』
魔導工学による優れたサスペンションが、ごつごつとした不揃いの石畳をも快適な旅路へと変えていた。
闇を割いて無言で疾走する魔導バイク。そのサイドカーにはすやすやと寝息をたてる二人の若い女性の姿が。そんな様を横目でちらりと眺め、銀の長い輝きをさらりと流し、ナナナは薄く笑みを浮かべる。
風よ。
風よ。
ああ、慈愛深き闇の風よ。
願わくば、傷付き疲れた彼女らを女神シーンの懐に誘いたまえ。
そのか細き月明りにて、我らの道を指し示したまえ。
「ふ……」
幾ら願っても奇跡は起こらない。起こせない。
ナナナは人造人間である。
故にその魂は模造品。プリーストの様に神の奇跡を引き起こす事は無い。
だが、廃棄処分となり原形質のスープへと還元される寸前、神の介在があったと信じてやまない。今も、第二神殿に下級司祭として在籍出来ているのもそのお導きによるものだと。
そして、いつの日か機能停止するその時が来る迄……
宵闇が明けの深い群青へと次第にその顔を変えて行く。
馬車で数日はかかる距離を、数時間で疾走していた。
その頃には街道から外れ、今は無舗装の小道に入り込んでいる。流石に、揺れも大きくなり、寝心地の悪そうな気配が漏れ伝わって……
「う、ううん……」
「お? 目が覚めたのかな?」
プリムはその声に、ハッと目を見開いた。
空気に嗅ぎなれた香り。
数年間を過ごした、修道院に近い森の木々の息吹。川のせせらぎの弾む様な響き。
身を乗り出して周囲を見渡せば、お別れを告げた筈の光景がそこに広がっていた。
あの木にも、あの石にも見覚えがある。
ようやく、自分のフィールドに戻った気分になり、ほおっとする。
「わあ~!」
「はっはっは! 良く寝てたじゃねーの。ほら」
「へ?」
ナナナが彼女の頬をちょいちょいと指で突っついて見せるので、ハッとなって掌でぐしぐしとこするとべったり涎が付いていた。
恥ずかしい~!
かあっと真っ赤になるやら、顔を隠すやら。血が頭にのぼって、頭の葉っぱも花もぴーん。
「やっだ! そったらみねーでやんす!」
「まぁ、確かに見られた顔じゃねーな。ほら、そこの小川で顔を洗って来たらどうよ?」
ききぃっとバイクが停車する。
坂の下には見慣れた小川が流れ、修道院は目と鼻の先だ。
確かに、この顔での再会は恥ずかしいかも。
「さ、先にいかねーでけろ!」
「いかねーよ。ほら、アデリアさんも、起きた方がいいぜ」
「ん……んん……」
そこで三人は身支度を改め、この坂道の先、丘の上にある修道院へとゆくのであった。
さて、門の呼び鈴を前にして、プリムは困った。
戻って来るには、あまりにも早すぎだ。どんな顔をされるやら。
そう思いながら、呼び鈴の下にある少し大きな、子供用の石によじ登る。人間の大人なら、難なく鳴らす事が出来るのだが、子供は、そしてメリヤのプリムは手が届かないのだ。
リンゴーンンン……
後ろにはナナナとアデリアがこちらを見ている。
誰が出て来るのだろう。
そのせっかちそうな足音で、凄く苦手なあの人だと……
ガチャリ。のぞき穴が開き、こちらを見る険しい目。
「まあ!!?」
扉の閂が。そして、開かれる。
「何だい!!? もう、戻されて来たのかい!!? まーったくあきれたものだよ!! えっ!!? プリムや!!」
「あ、ああああのぉ~……」
開口一番、修道院中に響く様な声で。
「あたしゃ、恥ずかしいったらありゃしないよ!!」
魔女も真っ青。真っ赤な顔で怒鳴り散らす老シスター。
あまりの恥ずかしさに、身がよじれるプリムでありました。
<第一章終了>
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