第11話『爆発』


 ランタン用の油を撒けば簡単に火は起こせた。

 そして、バチバチと弾ける焚火に、次々とその辺の木を伐っては放り込む。

 そうすれば、簡単に白煙がもうもうと立ち昇った。

 そう。これは仲間への合図だ。


「頼む~。気付いてくれよ~」


 冒険者パーティー『バイス』のゲイツ。

 四人パーティーの一人だ。

 当初、街の大門で見張りをしていた『バイス』のメンバーだったが、大門を女を数人乗せたシーン神殿の通行証を持った馬車が出て行くのを目撃し、その内の一人が顔を隠したアデリアだと看破するや連絡に一人走らせ、念の為に見張りを継続する者が一人残り、荷馬車を追う者が二人と別れた。

 そしてゲイツは荷馬車を追った二人の内の一人で。

 これは、追ってくるであろうクランの仲間たちに、女たちがどの街道を進んだかを報せる為のもの。


 そうこうしていると。


「おーい!! おーい、ゲイツー!!」


 遠くから仲間の呼ぶ声。

 無駄では無かったと振り向くと、見慣れぬ荷馬車に箱乗りになったクランの仲間たちが。

 急いで道に戻ると、手荒に迎え入れた。

 荷台はクランの仲間でぎゅうぎゅうだ。

 そしてゲイツは、結構使い込まれた荷馬車に眉をひそめた。


「おい。この荷馬車、どうしたよ?」

「ああ、借りた」


 その問いに、へらへら笑う男たちの中、ヒデーヤが悪びれる事も無く答える。


「借りたって、誰から?」

「知らね」

「え? それって……」

「いいだろ!? 事が済んだら返すんだからよおっ!! しつけえぞ!!」


 馬は汗だく。泡を吹き、尻には血が滲む無数の鞭の痕。

 一目で馬を使い潰す気満々だと判った。

 シーン第二神殿の荷馬車に追いつく為、二十人からの男が乗り込んだ荷馬車を無理に引かせて走らせたのだ。

 事が済んだら返すというが、瀕死の馬とガタガタになった荷車を突っ返して知らんぷり、というのが冒険者クラン『メルヘンリンク』のやり方だ。相手の事など知った事じゃない。

 そうやってグランゼールにおいて中堅クランまでのし上がって来た。

 不平を漏らす者には制裁と追放。そうやって潰される。

 強引なやり方が当たり前だ。

 故に、ゲイツの様にいくばくかは常識のある者も、余り表立って口を挟む事は出来ないでいた。


「おらおら、ゆれっぞ!! 落ちたら置いてくかんな!!」


 ヒデーヤの命令に、荷馬車は再び速度を上げていく。

 荷台は軋み、今にも車輪の芯棒が折れるんじゃないかと思える悲鳴も鳴らす。

 そもそも、荷馬車でこんな速度を出すのが無理な話。街道に刻まれた深い轍に沿って走るものの、幾度も左右に大きく揺れ、その都度ばらばらと何人かが転げ落ちた。

 だが、荷馬車は止まる事も無く、落ちた男らが走るに任せる。

 すると。


「あれだな!?」


 走る『バイス』のメンバーの背中が見え、更にその向こうに荷馬車が。その荷台の上で、誰かが動いているのも分かった。


「へ! 今更気付いても、おせーぜ!! いくぞ、野郎ども!! ゴー!! ゴー!! メルヘンリンク!!」

「「「「「「「「「「ゴー!! ゴー!! メルヘンリンク!!」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「ゴー!! ゴー!! メルヘンリンク!!」」」」」」」」」」

「ぎゃははは!! 俺たちゃ無敵だっぜ!! そこの馬車、止まれーーーーーっ!!!!」


 みるみる肉薄するや、眼前の荷台から、バシュっと何かが打ち出された。

 それは一条の白煙を夕日に染め、冒険者らの荷馬車に真っ直ぐ吸い込まれ。


 ちゅどーーーーーーーーーーんんんんん!!!!


「あっれぇーーーーーーーっ!!?」


 凄まじい爆音と共に荷馬車を紅蓮の炎が包み込み、男たちはバラバラに投げ出された。

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