第9話『激突』


 歓楽街をぞろぞろと行進する冒険者たち。

 とある路地に入る頃に、それぞれの得物をぞろり抜き放った。


「ちょほ~いと待ちな~」


 その先の路地を入った所がシーン第二神殿という辺りで、十数名の若者が手に手に武器を持って待ち構えていたのだ。

 その中の、犬頭の一人がずいっと一歩前に出た。


「あんたらを通して良いって話、聞いてねーんだけどなぁ~」

「ああ、そうかよ!!」


 先頭に立つヒデーヤのその一声に、冒険者たちは一斉に走り出す。そうはさせじと、待ち構えていた連中も迎え撃つのだが、頭数は半分程度だ。バラバラと何人かが抜け出て、教会の方へと駆け込んで行く。


「野郎!!」

「させねぇよ!!」

「死ねや、こらあっ!!」

「ぎゃひいいい!!?」

「あは! あは! あはははは!!」

「行け、コエーヨ!! 奴らをぶっつぶせ!!」

「マ”!!」

「や、やべえ!!」


 一際デカい男が、のそり動き出すと、巨大な棍棒を一振り。たちまち二三人が吹っ飛んだ。その中には冒険者仲間も含まれる。

 そんな事はおかまいなし、喜悦いっぱいヒデーヤの命令が飛ぶ。


「いいぞ、コエーヨ!! そのまま教会の門もぶっつぶせ!!」

「マ”!!」


 巨大な棍棒を掲げ持ち、のっしのっしと歩み出すコエーヨ。冒険者仲間も巻き込まれるのは御免だと、慌てて後ろに下がって輪になった。

 色めき立つバロアの手下たちは、散り散りに逃げ出すかと言えば。


「足だ!! 足をすくって転ばせろ!!」

「よっしゃーっ!!」

「あは! あは! あはははは!! あーっ!?」


 ぶんぶんと振り回される巨大な棍棒の下を掻い潜り、何人かがタックル。ぐらり揺らいだコエーヨの巨体は、地響き発てて横転した。


「それっ、今だ!!」

「お前ら、させんな!!」


 歓声を挙げ、横たわるコエーヨに襲い掛かる男たち。ナイフを手に、手や足に組み付く者。頭に脱いだシャツを巻きつけて、目や口を塞ごうという者。それを阻止せんとする『メルヘンリンク』の冒険者たち。


「うわあああ、マーマ! マーマ!」

「やっちまえー!!」

「死ねー!!」


 たちまち、くんずほぐれつの泥仕合。

 一人、また一人とバロアの手下が応援に駆けつけ、数の有利も消えていく。

 逆にふらふらと一人また一人逃げ出す者も出る中、冒険者たちは自然と各パーティー毎に固まり、前衛後衛とに別れ、的確な攻撃を繰り出し始めた。

 これにはヒデーヤも上機嫌。


「はっはっは!! ざーこざーこ!!」

「ふーっ、ふーっ、ふーっ!」


 酔いが醒めたか、パーティーの連携が機能し出すと、各個撃破に専念しだす。傷付いた者から潰していくのだ。

 そうこうしている内に、疲労から膠着状態に陥り、双方対峙して睨み合いになる。


「「くっそー、意外としぶとい……」」

「「どうしたものかー……」」


 なんかお互い同じ事を口にし出したその時だった。

 新たに駆け込んで来る男が一人。一目で冒険者の仲間と判ったが。


「た、大変だヒデーヤ!! 教会の馬車が門を抜けやがった!! 女も乗ってる!!」

「なぁ~にぃ~っ!!? くそアマどもぉ~っ!!」


 目を剥いて怒りに燃えるヒデーヤ。

 その傍らで、絶望に顔を染めるムラーノ。ローブの下はパンツ一枚。


「そんな、アデリアー!」

「馬車だぁ~っ!!? そんなに遠くへ行って無ぇハズだ!! 戻るぞ!! ゴーゴー『メルヘンリンク』!!」

「「「「「「「「「「ゴーゴー『メルヘンリンク』!!」」」」」」」」」」


 傷だらけの腕を高らかに掲げ、クラン仲間を鼓舞するヒデーヤに、皆でクラン名を高らかに叫び、雄たけびも高く街の大門目指して走り出した。

 だが、それを黙って見送る訳が……


「ま、待ちやがれー!!」


 追いかけようとする幾人かを、リカントの男が大手を広げて静止した。

 これに激昂する男たち。

 納得できないと詰め寄るが。


「どうしてだよ、アニキー!!」

「ほっとけ。この落とし前は、後でじっくりとつけてやるさ。なあ、そうだろ?」


 どすの効いた不敵な笑み。

 それに、一同ごくりと唾を飲んだ。


「くくく……奴ら、終わったな……」


 冷や汗たらり。

 男たちは冒険者らの運命を悟り、腹の底であざけ笑った。


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