第9話 復讐の序章
ロシア空軍を撃破したノクティス第三帝国は、その後わずか六日間でロシア政府を屈服させ、無条件降伏に追い込んだ。
かつて「大祖国戦争」を戦い抜き、ソ連崩壊後も大国の誇りを掲げ続けたロシア——その広大な大陸が、完全にノクティスの支配下に置かれたのだった。
そして、その歴史的勝利の日。
アウグスト・ヒトラーは、世界中の通信網を再び掌握し、各国の放送を電波ジャックして演説を行った。
「世界よ、思い知ったか——これが真実だ。我等アーリア人種こそが、世界を統べるに相応しい存在なのだ。醜き血統で世界を牛耳ってきた者どもよ。今この瞬間から、恐怖に震えるがいい。我等は貴様らが地の果て、海の底、宇宙の片隅に逃げようとも、決して見逃すことはない。必ず追い詰め、裁きを与える」
冷たい声が世界に響き渡る。それはカリスマを持つ独裁者の声であり、血の運命に囚われた男の声でもあった。
「「「おめでとうございます、総統!おめでとうございます!!」」」
歓声がモスクワの街を揺るがす。
ノクティス第三帝国の改造兵士達が、黒き制服を翻しながら整列し、拳を突き上げる。
彼らは、遺伝子改造によって生まれた"人間兵器"だ。
第二次世界大戦末期、ナチス・ドイツが必死に追い求めた超人計画――その完成形とも言える存在が、今こうしてアウグストの目の前に跪いていた。
アウグストは、しっかりとした足取りでモスクワの中心部へと進んでいく。
目的地は、”ベールイ・ドーム”。
ロシア連邦議会が使用していた白亜の建物は、今やノクティスの支配の象徴となっていた。
戦火に晒されたものの、その外壁には歴史を物語る無数の弾痕が刻まれている。
アウグストはその痕跡を無言で見上げると、わずかに口角を吊り上げた。
"ロシア帝国"
"ソビエト連邦"
そして"現代ロシア"は、この手に沈んだ。
次は――
各国の諜報機関は、息を詰めながらその通信を傍受していた。
だが、その刹那。
「人工衛星を攻撃します」
冷静なオペレーターの声が、ノクティス艦隊の管制室に響いた。
瞬間、地球軌道上に展開していた各国の人工衛星群が、次々と制御を失い、大気圏へと墜落していく。
燃え上がる鉄の塊が、夜空に流星群のような光跡を残し、世界各国の人々に恐怖を刻みつける。
「馬鹿な……通信衛星が……!」
「こんな短時間で、どうやって……!」
各国首脳陣の間にパニックが広がる。
しかし、それは始まりに過ぎなかった。
地上も、空も、宇宙すらもノクティスに支配される未来が、目の前に迫っている――。
技術的には不可能とされてきた兵器群、統一理論を実現した未知の技術力、そして何より"ヒトラーの血"を引く狂気の独裁者。
全てが組み合わさった時、国家防衛の常識は崩壊した。
アウグストの心に渦巻くのは歓喜ではなく、静かな憤怒。
歴史によって穢された「ヒトラー」の名を、世界に再び刻み込むための第一歩を踏み出したに過ぎない。
彼にとって、この勝利は"復讐"の序章に過ぎなかった。
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