第10話 電撃戦
ロシア連邦全土を火の海に変え、モスクワを陥落させてもなお、ロシア軍の抵抗は終わらなかった。
ノクティス第三帝国の圧倒的な軍事力を前にしても、西部から東へと撤退した陸軍部隊と航空戦力は、極東地域の沿岸部へと結集しつつあった。
艦隊の残存部隊が拠点とするカムチャツカ半島、ヴィリュチンスク基地には、各地から生き残りの兵士達が集まり、新たな防衛線を築いていた。
ロシア海軍は、ソ連時代からの歴史を背負う老朽艦を繋ぎ止め、わずかに残った近代化艦艇を中心に、最後の抵抗に備えていた。
かつて北方艦隊の象徴だった重原子力巡洋艦ピョートル・ヴェリーキーやタイフーン型原子力潜水艦は失われ、辛うじて運用可能な軍艦が数隻、退避した航空機部隊の防空支援に回されている状況。
補給は断たれ、電子戦も圧倒的不利。だが、それでもロシア兵たちは諦めなかった。彼らの目には、祖国を蹂躙する第三帝国への怒りと、極東に追いやられた祖国最後の砦を守る覚悟が宿っていた。
その抵抗勢力を完全に掃討すべく、ノクティス第三帝国空軍司令官ヘルマン・ゲーリングは、自ら巨大飛空戦艦ヴィマナに乗り込み、最終作戦を発令する。
かつての歴史とは違い、この世界におけるゲーリングは単なる空軍総司令官ではなく、「神話兵器」とも呼ばれる超科学飛空戦艦群の指揮官として、第三帝国の航空戦力そのものを支配する存在だった。
「ゲーリング」
ヴィマナのタラップへ向かうゲーリングを、背後から呼び止める男がいた。
ノクティス第三帝国総統、アウグスト・ヒトラー。彼の身を包む漆黒の軍服は従来のナチス制服を基調としながらも、肩章にはノクティスを象徴する黒い心臓とハーケンクロイツを組み合わせた紋章が輝いていた。
「ハッ!!」
軍帽を正し、踵を鳴らして振り返るゲーリング。
その肉厚な顔で光る鋭い眼光。人間兵器へと改造され幾分かは引き締まった巨体は、生前より更に大きく見える。
「この後に日本との会談が控えている。余り時間をかけるなよ。ロシア掃討に手間取るようでは、我が第三帝国の名が廃るからな」
「ハハッ!!必ずや期待に応えてみせます」
ゲーリングは力強く敬礼し、最後に叫ぶ。
「ハイル・ヒトラー!!」
「ハイル・ヒトラー」
互いに腕を掲げ、敬礼を交わした後、ゲーリングは直属部隊——改造歩兵師団“ヴァルハラ”の兵士達と共にヴィマナへと乗り込んでいった。
一方その頃、ノクティス第三帝国ドイツ首都ベルリンでは。
ノクティス第三帝国の中枢にあって、国家そのものを戦時体制へと作り変える作業が着々と進められていた。
その陣頭指揮を執るのは、かつてのナチス・ドイツ時代に国防軍最高司令部(OKW)総長を務めた亡霊、ヴィルヘルム・カイテル。
そして、冷徹無比な作戦参謀として恐れられたアルフレート・ヨードル。
二人は超科学に彩られた新たなドイツ軍を、第二次世界大戦で失敗した教訓を踏まえつつ、さらに強靭な軍事機構へと作り変えていた。
彼らの策定した新戦略を受け、ノクティス陸軍の最精鋭を率いるエーリヒ・フォン・マンシュタイン元帥、そして“電撃戦”の神髄を極めた装甲部隊の指揮官ハインツ・グデーリアン将軍が、新生ノクティス・ドイツ陸軍を指揮する。
彼らの目標は、再び東方へ。かつてのバルバロッサ作戦を超える、最終侵攻作戦だった。
そこで実戦投入されたのが、第三帝国陸軍最強兵器『移動要塞キング・タイガー』である。
全長40メートルを超える機体は、第二次大戦のタイガーI型から名を継ぎつつ、遥かに異質な進化を遂げていた。
ミサイルを弾き返す200センチ厚の重装甲、4連装の150mm口径主砲とペトリオットシステムを装備、そして十数名の兵士が乗り込む多層指揮管制システム。
電子戦能力も内蔵し、単なる戦車ではなく、走る戦闘司令部兼要塞として設計されていた。
その圧倒的な威容は、かつて連合国の兵士達にトラウマを植え付けた「タイガー」の名を冠するに相応しい陸上兵器だった。
陸上を支配する『キング・タイガー』機甲師団、そして空を覆う『ヴィマナ』航空艦隊。
それらの連携が生み出す戦術は、1940年のフランス侵攻を思わせる完璧な電撃戦としてロシア全土を蹂躙した。
陸上では巨大要塞戦車群が敵を踏み潰し、上空からは不可視の重力兵器による爆撃が次々と地表を焼き払う。
ロシア軍の近代化兵器も、かつてソ連が誇った電子戦能力も、第三帝国の超技術の前には“ほぼ”無力だった。
「全てを過去にする。これがノクティス第三帝国の力だ」
カイテルは薄く笑みを浮かべ、ベルリンの総統官邸から東の空を見据えた。
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