第27話世界一身分違いな恋

「とにかく、悪化させないためにはしばらくは絶対安静にしてストレスを溜めない事です」

「ストレス……。やっぱり苦しくなったのはオメガ・セロトニンの減少が原因ですか……?」


 エミリーは「そうです」と静かに頷く。


「あなたの今の数値は限りなく低い状態です。いつ重い病気にかかってもおかしくはありません。それくらい免疫力の低下も深刻です。倒れたのは風邪の悪化が原因でしょうが……」

「なんだ。ただの風邪なら……」

「いえ」


 先生は顔を横に振って否定する。


「ただの風邪だからと言って侮ってはいけません。数値が低い時の風邪はとても厄介なのです。風邪が重病化してしまうオメガ患者さんもそれなりにいるのですから。だからできるだけ外へは出歩かないように。トイレや入浴以外は安静にしてください。それといつヒートがくるかわかりませんが、前兆が表れましたら毎日こちらの強い抑制剤を必ず飲んでください。オメガ・セロトニンが低下中のヒートは生命力を削られてしまうので命に関わる事が多いのです。それで亡くなる人も中にはいます。出来るだけヒートにならないようにあえて一番強い薬を出しておきますね」


 一番強い薬はヒートにはほとんどなりにくくなるが、倦怠感などの副作用も出やすいので普段はお勧めはしないらしい。しかし、自分の状態が予想外にも深刻らしいので、今回だけ処方するのだという。

 

「今は本当に病気になりやすいので、少しの異変があればすぐ呼んでください」

 

 *


 サミットも最終日となり、滞りなく全日程を終えられる事にホッとする。

 この一週間は仕事の合間に外を眺めたり、国同士の重要な会談も少し上の空になってしまったりと、自分の立場を忘れそうになってしまったが、なんとか国のトップの代役をやり遂げた。


 パスカル……。


 ずっとあの愛しい存在に想いを馳せていた。逢えない日が寂しくて苦しくて、らしくもなく心をかき乱されて、仕事にもあまり身が入らない日々だった。


 はやく逢いたい。可愛くて愛おしい存在をこの腕で抱きしめたい。


 きっと向こうも逢えない日々に寂しがって泣いている。そんな姿を想像すると、可哀想でなんて可愛いのだろうと愛おしくてたまらなくなってくる。


 自分の立場上、いつまでもそれは無理だとわかっていながらも、気持ちはどんどん募っていく。ダメだとわかっていながらも、あの可愛らしい小動物のように震えている少年を手放せない。


 それでも、今晩には自分の気持ちを伝えようと思う。

 好きだと、愛おしいと。

 

 たとえ身分がそれを許さなくても、できる限りそばにいたいと伝えよう。いつか終わりがくるとわかっていても、それでも一緒にいたいと。



「メルキオール皇太子殿下、この度は我が国までご足労感謝いたします。一週間のご公務大変お疲れさまでした」


 サミットのホスト国であり、このヴァユ国の国王陛下とレナード王太子殿下がメルキオールに頭を下げる。


「こちらこそ滞りなく進めてくれて感謝する、ヴァユ王。この一週間はとても過ごしやすかった。それにいろんな意見を交換できて勉強にもなった。大義であった」

「ははぁっ!私には勿体ないお言葉っ!ありがたき幸せにございます」


 アカシャは東西南北に存在する全ての国の頂点に立つ偉大な大帝国。必然とすべての国王は次期皇帝陛下に即位するメルキオールに頭を下げなければならない。一番権威のある彼に。


「メルキオール様の素晴らしい御高説と外交力。とても同い年とは思えませんよ。さすがです!」

「それはありがとう。だがレナード。お前は次期国王となる身ならもう少し民の声に耳を傾けろ。お前の発言や言動が国の未来を左右する事を忘れるな」

「ははっ!厳しいお言葉痛み入ります。私をこうして注意できるのは父上とメルキオール殿下くらいですよ。いやーホント憧れです!」


 キラキラとレナードを筆頭に各国々の王太子達から尊敬のまなざしを向けられる。彼らと同い年といえど、世界の頂点に立つこちらが手本とならなければならない。常にリーダーシップをとり、皇帝代理として他国をまとめ上げるのも仕事だ。


「私もメルキオール殿下のような素晴らしいリーダーになりたいです。皆から尊敬されるトップに。いや~その前に結婚かな。いい奥さんを隣に置いて国のかじ取りをする。うん、それって素晴らしいと思いませんか!?」

「……………そうだな」


 と、寡黙に冷静に返答。


「ぉ、おいレナード!メルキオール殿下が引いておるだろ!申し訳ありません殿下。この愚息は最近気になる女性の話ばかりで……」

「別によい。若い時にしかはしゃげない事もある。だが、己が王族という立場を忘れるな。常に民の事を考えよ。民は常に王家を見ている」

「は、はいっ!」

「よく言い聞かせておきます!」




・・・・

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