美加
@hirobe_fannel
午前8時、通学路
メイン通りに到着して左右を確認する。
瞬間、ラベンダーの香りが風と共に通り過ぎた。匂いの方を向くと、キッとブレーキ音が鳴った。
「おすー」
ラベンダーの香りを仄かに纏った女の子が人懐こい笑顔でそこにいた。
美加は小学校からの友達だ。いつ頃からかお互いに気が合うと感じるようになり、よく喋るようになった。
中学生になると女性として意識するようになってしまったのだが、この心地よい距離感を壊したくなくて高校生になった今でも何も言えずにいる。
「おはよっ」
心の奥から何かが込み上がってくるのを抑えて出来るだけ爽やかに声を発する。
恐らくは恋心なのだと自覚してから、この感情が暴走しないように知らないふりをして心に蓋をする。
「じゃ、教室でね」
そんな僕の想いなど知らない美加は、可愛らしく敬礼するとそう言って自転車で走り去っていった。
僕の視線がほんの少しだけ彼女の後ろ姿を追う。そんな自分がした行動に気付くとまたそれに蓋をするために無理やり視線を切って山を眺める。
校門のすぐそばにある駐輪場に到着すると美加がクラスの男子に囲まれていた。美加は飾り気がなく、お茶目で愛嬌があることもあって結構人気があるのだ。
意図せず僕の心臓がキュッと苦しくなるが、それでも僕は心の反応から目を背け知らないふりをする。
心の中にモヤが生まれるのを感じ、僕は「静まれ、静まれ」と自分を宥めた。
そんな僕の葛藤を他所に、美加は僕に気づくと小さく手を振ってくれた。
反射的に心がふわっと浮き上がる。
脳内で始まろうとしていた「気持ちよ静まれ重点会議」のことなど一瞬にして忘れ去り、気付くと小さく手を振り返していた。
美加の周囲にいた男子がこちらを振り返りそうだったので、僕は慌てて視線を背けて離れた場所に自転車を置く。
教室に着くまでに何人かの友達と他愛もない話をしながら席に着いた。
程なくして仄かなラベンダーの香りと共に近くで椅子を引く音がした。美加が斜め隣の席に着いたのだ。
美加は僕の視線に気付くと笑顔と共に再び小さく手を振った。
ドンっ。
美加の反対側から誰かが体当たりしてきた。虎太郎だ。
「で、いつ告るんだよ」
小声で耳打ちする。
「ばっ……!」
反射的に虎太郎の口を手で塞いて美加の方を確認すると美加は机に座って1限目の教科書などを整理していた。どうやら聞こえては無かったようだ。
「ちょっ、違うから! 茶化すなよ!」
僕は小声で猛反論する。全く。
「いい感じに見えますけどなぁ。まぁ、頑張れよ」
ポンポンと俺の肩を叩くと虎太郎は自席に戻った。
嵐が去り、ちらりと美加の方を伺うと何故か美加は珍しく頬杖をついて僕と反対側を眺めていた。
美加 @hirobe_fannel
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます