1話 さようなイエスタデイ
教会に、二匹の猫が捨てられていた。
小さな木箱の中で体を寄せ合っている二匹の猫は、生まれたばかりの子猫だった。
おそらく何日も何も食べていないようで、骨が浮き、目が虚ろで明らかに死にかけている。
村に鶏の一番声が聞こえ、白い鳩が薄青色の空に飛びだつ。
早朝、教会の神父が日課である個人の祈りをするために、外に出て驚いた。
捨てられた二匹の子猫。
それを発見した神父は、急いでヤギミルクを飲ませると、一匹の子猫は旺盛に飲んだが、もう一匹は自ら飲む力すら無いようで、命の光が消えかけていた。
どうしようもないこともある。一匹でも助かればいい。
神父が諦めていた時だった。
元気にミルクを飲んでいた方の子猫が、死にかけている子猫に口移しをしてミルクを飲ませ始めた。
しかし、口すら開けることのできない子猫、それでも決して諦めずに必死にミルクを流し込む。
教会に、光の矢のような朝日が当たった。
それは、とても強い光だった。
死にかけた子猫にミルクを与える事をやめようとしない。
自分も弱っているのに。
それに答えるように、衰弱した子猫は口を開けようとする。
二匹の子猫は、生きようと必死だった。
神父はそれを黙って見ていることしかできないでいた。
しばらくすると、死にかけていた子猫は舌を出し、ゆっくりとミルクを舐めはじめた。
神父は慌てて持っていたミルクを足した。
その手が僅かに震えていた。
しばらくして二匹の子猫は、元気よくミルクを飲み始め、閉じていた瞳が大きく開き輝きだした。
それは消えかけた命が、力を取り戻した瞬間だった。
「神よ、私は今まで一体何を信教してきたのでしょう」
神父は恥じた。
簡単に諦めかけた自分を。
己の尺度で決めつけた命。
しかし、同じ兄弟である子猫は、自分が死にかけているにも関わらず、兄弟にミルクを分け与えるその姿。目の前の死にかけている命を救おうとするそのあたりまえの姿。
泣き顔が、微笑みに変わる瞬間。
愛する力。
あたたかい光を包む瞬間、神父は神を見た。
見上げると、空に今日も幾つかの涙星が落ちているのが、うっすら見えた。
「消えゆく命がまた、この星で生まれ変わる」
神父は木箱を大事に抱き上げると、教会の中へとゆっくりと入っていく。
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