瑠璃色の物語
マミヤ・アンプリファイ
第1章 TOPIX
はじまりは、いつも雪
10年ぶりに、東京に雪が降った。
「蛍が、降りてきたね」
コートに両手を突っ込んでいる僕の横で、
夜空の向こうに笑顔を向けて。
来月、僕の16歳の誕生日だった。
それなのに青葉は今日、僕を呼び出してプレゼントをくれた。
僕の好きなキャラクターの赤いマフラー。
少し気恥ずかしかったが、「ありがとう」と首に巻くと、青葉はうれしそうに大きな瞳で僕を見つめる。
どうして、僕は気づいてあげれなかったんだろう。
ファミレスで他愛ない会話をして、何度もフリードリンクをお代わりをして、大きなパフェを頬張り、その日、小さなデートを終えた。
帰り道、なぜか一言もしゃべらなくなった青葉。
分かれ道、「じゃあ、明日」と僕が言うと、彼女の唇が小さく何かを言った。
僕はよく聞こえなかったけど、上げた手をポケットに戻すと、彼女に背中を向けた。
寒さが増し、雪が風に舞う。
この白い雪を、蛍に言い換えるところが、青葉らしい。
そんな青葉の事を僕は好きだった。
弱虫は、僕のほうだったね。
家に着いたら、彼女にラインでもしようと僕は家路に足を速めた。
翌日、彼女は部屋で首を吊って自殺した。
僕のスマホには、クラスメイトから、たくさんのラインが溢れていたが、何一つ読む気にはなれなく、ただ、昨夜青葉に送ったメッセージだけを見つめていた。
永遠に既読にならない彼女へ送った言葉。
一か月早い、誕プレ。
どうして、あの時気づいてやれなかったんだろう。
どうして、あの時、君の話を聞いてあげれなかったんだろう。
どうして、あの時、君の話をしてあげなかったんだろう。
どうして、僕は抱きしめてあげなかったんだろう。
どうして・・・・・。
あれっ?と思ったとき、僕は泣いていた。
初めて手をつないだ、あの温もりが急に蘇った。
二人迷うことなく、心のままで生きればよかった。
今は、後悔しかない。
弱虫は、僕のほうだったね。
それからは酷かった。
まるで生まれたばかりの子供のように。
手の付けられない駄々っ子のように。
捨てられた子猫のように、僕はみっともないくらい大声で泣いた。
葬儀が終わり、クラスメイト達の輪から僕は一人離れた。
誰とも口を利きたくなかったからだ。
陰湿ないじめを受けていた青葉。
加害者は、自分達が原因だとは思わない。
だから平気で、この場で稚拙な涙を流す。
交わす言葉も態度も形骸化され、それが僕には腹正しく怒りしか覚えなかった。
「加藤君」
突然、名を呼ばれ見上げると、そこには青葉の母親がいた。
白く整った顔が、当然の如くやつれていた。
落ち着かない黒い視線が、まるで溺れているように僕には見えた。
かける言葉が見つからない僕に、青葉の母親は「これをあなたに」と一冊のノートを渡してくれた。
表紙には、「僕たちの瑠璃色」と書かれている。
「あの子、小説書いていたみたい」
隙間風のような声で、母親は言った。
「これを僕に?」
「この小説、冒険のような内容なんだけど、私にはよくわからない話。だけど、きっと彼女には現実から唯一離れられる救いの場所だったと思うの」
青葉が小説を書いていたなんて、全く知らなった。
渡されたB5のノート。
僕はパラパラめくると、そこにはびっしりと文字が詰め込まれている。
「家ではめったに口を効いてくれなかった子だった。でも、加藤君の話だけはいつも笑顔で話してくれたの。私にはわかる。これはあなたに持っていて欲しいと、あの子は言ってる。もらってくれる?」
母親の瞳が、初めて僕を捕らえた。
これを僕にもっていてほしい・・・・それが運命なら・・。
「はい」
僕はノートを鞄にしまうと、深く礼をした。
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