影を見据え
夢幻牢の部屋から部屋へと進み、魔物や罪人達との戦いを経たエルクリッドは休憩部屋にて十分休んでから先へ進み、アヤセの待つ最奥部へと辿り着いた。
椅子に座りカードを確認していたアヤセがエルクリッドに気づいて目を向け、手早くカードを家紋入りのカード入れに収めながら二の腕につけ直し、立ち上がり椅子を下げながら顔を合わせる。
「お待ちしていましたエルクリッド、お変わりはないようですね」
「お久しぶりです! 色々話したい事もあるけど、まずはお手合わせお願いします!」
明朗快活にエルクリッドが笑顔で勝負を申し込み、ゴーグルをつけその目に闘志を宿す。その心意気は亡き妹マヤの親友だった事もあってアヤセは嬉しく思いつつも、十二星召としての役割も忘れぬようにと高鳴る思いを一度沈めエルクリッドにある事を伝えた。
「エルクリッド、此度のワタクシとの試合……ワタクシはネビュラ・メサイアが製作した密造カードをいくつか使い貴女と戦います」
「えっ……全部処分したんじゃないですか? それにどうして……」
勢いを止められたようにエルクリッドが目を丸くし一気に熱を下げて問いかけ、アヤセも少し言い難そうに眼鏡の位置を直しつつそういう指示ですと伝えながら素直に事情を明かし、丁寧に伝えていく。
「ネビュラの施設や遺された資料等を精査した結果、貴女の中にもう一人の意思……アスタルテと名付けられた存在がいる事や、貴女の中に火の夢としての力が未だある事などについてどうすべきかと十二星召で話し合いました。ワタクシとの戦いは星彩の儀としての試練であると同時に、貴女の中にあるものがエタリラにとってどのようなものかを見定めるもの……その為に手厳しく、と指示を受けています」
ドクンとエルクリッドの中で強くそれは脈動する。確かに自分の中にある力やアスタルテの存在はエタリラにとって新たな脅威になり得ると、己の存在もまたそうなってしまわないかとエルクリッド自身自覚はあった。
それを考え悩みながらも前に来た中でやってきたアヤセとの戦い。素直に隠さず十二星召としての役割も明かしてくれた事に思いやりにも似たものを感じつつ、エルクリッドは構いませんと返しまっすぐアヤセの目を見て意思を伝える。
「あたしも、自分の事はもっと知りたい……自分の力の事とか、それを制御できるのかとか、色々。その為に必要なら、あたしは困難を乗り越えてきます、あたしの目指すものの為にも」
「エルクリッド……わかりました」
迷いや不安は微かに感じられながらも、エルクリッドの言葉や姿勢は前を向き強い意思があった。目標の為に先へと進む、待ち受ける困難から逃げずに臆せず進むと。
すっとアヤセが密造カードを入れる小さなカード入れの封を解いて中のカードを引き抜き、エルクリッドに確認させるように見せてから自身のカード入れへと収め指を鳴らし部屋が広く展開する。
すぐにエルクリッドも両頬を叩いて気を引き締め、互いにカード入れに手をかけ戦いの火蓋は切られた。
「お願いします、スパーダさん!」
「参ります! 声を轟かせ雌伏より目覚めなさい、スノウ!」
エルクリッドは黄金の鎧を纏いし
(サンダーバードは凄まじい力を持つ反面、覚醒までに時間を要します。その前に倒すか、結界が解ける覚醒時に攻めるか、どちらかがいいでしょう)
(密造カードを使ってくる、ってアヤセさんは言ってたしね。リスナーバインドもあるだろうし、スパーダさんへの魔力供給が途絶えたら攻撃は止まっちゃうし……)
動きが鈍重な内に倒すか、活性化してから打ち倒すか、事前に密造カードを使うとわかっているが故に慎重にもなる。だが動かねばスノウが力を貯め終えてしまうし、アヤセの方から動く可能性もある。
ゆっくりとアヤセがカード入れへ手を伸ばしたのを見てエルクリッドは素早くカードを抜き、スパーダもまた大剣を強く握り走り出す。
「スペル発動フレアエッジ!」
カードより放たれる炎の刃がスノウへと向かい、それを大剣で絡め取り纏わせたスパーダが跳躍し切りかかりに行く。雷の結界は風属性のもの、相反する火属性で打ち破りに行くという判断にはアヤセも静かにカードを抜きつつ舌を巻き、スノウも危険を察してか距離があるうちにふわっと下がり攻撃を躱した。
「臆せず攻めに転じた意気は良し、ですね。ではワタクシも場を動かすと致しましょう、スペル発動、サンダーフォース」
発動されたカードより放たれた青白い雷電をスノウが纏い、雷の結界が厚みを増しスノウの目も一気に開く。
風属性アセス、特に雷を操るアセスを強化するサンダーフォースを用いて覚醒を早めるというのは想定はできたが、不意打ちのように使ってこなかった点がエルクリッドは少し引っかかり、一度下がったスパーダと共に警戒を強めた。
「スパーダさんの攻撃に合わせて迎撃する、ってのも多分できたよねアレ」
「相討ちの危険を避けた、というのもあるでしょう。あの巨体ではどうしても小回りの差がでますからね」
人間の数倍はあるサンダーバードのスノウが雷鳴にも似た声を轟かせながらつばさを広げ舞い、開いた眼差しでスパーダを捉えすぐさま身体を揺らし逆立つ羽毛が雷電を纏う。
刹那に放物線を描くように青白い雷撃をスノウが放ち、さらに蛇行し不規則な動きを見せながら数多の雷電がスパーダへ迫る。これをすぐに前へと駆けながら躱し、避け切れないものは剣の炎で切り払いながらスパーダは進み、凛々しくも勇ましい奮戦ぶりにはアヤセも感心しながらカードを抜く。
「ツール使用、蠱毒の枷」
ガシンと音を立てスパーダの腰部に装着されるのは青緑の毒々しい色合いをした鉄の枷。そこからじわりじわりと黄金の鎧を侵食するように青緑の色が広がり始め、スパーダも動きを鈍くしながらも止まらずエルクリッドもすぐに対応する。
「スペル発動ツールブレイク! スパーダさん!」
「問題ありません、このまま行きます!」
蠱毒の枷が砕け散って消滅し、身を案じるエルクリッドに答えたスパーダがスノウへと向かおうとするも、刹那にスノウの方から接近し巨大な鉤爪がスパーダを捉え抑え込む。
凄まじい握力に身動きどころか鎧を潰され始め、スパーダは手首だけで剣を投げてスノウの足へと突き刺し拘束を解く。が、立て直す間もなく口を開けたスノウが雷球を吐きつけて追撃し、直撃するも青い膜に守られてるのをアヤセは捉えエルクリッドのプロテクションによるものと見抜く。
「咄嗟の対応力は流石といったところですね。ですが、一手遅いです」
アヤセが褒めつつも眼鏡を怪しく光らせた瞬間、プロテクションの膜に突き刺さる青白い雷がいくつも現れエルクリッドは目を見開く。
それはスノウの放つ電撃が継続的に放たれているものであり、防がれようとも途絶える事なく増え続けていた。
すぐにエルクリッドはカードを抜きかけるも、先に使ったツールブレイク発動に伴う充填が終え切れてない事もありスペルは使えず、ならばとツールカードを抜くも使用する直前にプロテクションの効果が切れ数多の雷撃がスパーダを刺し貫く。
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