解き放つ力
全身を貫く衝撃は意識を遠退かせながらゆっくりと時間を流し、稲妻が走るように裂ける肌から血が吹き出しエルクリッドは膝をつく。
スノウの強烈な電撃攻撃は
(ごめんねスパーダさん、あたしの見積もりが……甘かった)
ブレイク系スペルは充填時間が少し長く次に使えるスペルも限られ、その中で基本スペルのプロテクションは直後に使えるのもあり相性は良い。だが今回はそれを逆手に取られて防御と回避が間に合わない状況を作られ一気に撃破まで繋げられた。
ここまでは仲間と共に挑んでいた事や、カードの強さや勢いで乗り越えられた部分が大きいと改めて実感させられ、エルクリッドは大きく息を吐くと目を閉じ集中し直すと開いた瞳孔が細くなり髪色が黒く染まっていく。
「仄暗き深淵より頭を上げ祈りを捧げよ……いくよ、ローレライ!」
白い煙を噴き出しながら半透明ののっぺりした蛇のような身体をぬっとローレライが現し、ごぽごぽと鳴き声のような音を鳴らしながら体内の光を瞬かせる。その姿を見上げながらアヤセは肩の力を入れ直し、次のカードを引き抜き構えた。
「それが報告で聞いた貴女の魔獣……そしてその黒髪は、火の夢の力が高まった事を示すもの、でしたね」
「あたし自身そこんとこはわかってないとこもあります。でも、この力を使わないと、あなたに勝てないなぁって思えた……その先で待ってる奴の為にも、向き合って戦い抜きます」
「良い答えです。遠慮はいりません、ワタクシ達にその力を存分にぶつけてください」
エルクリッドが我を失ってはいないのを会話をしながらアヤセは確認し、促される形でエルクリッドもカード入れから黒のカードを引き抜きローレライも煙を多く噴出させ泳ぐように進む。
スノウがふわりと距離を取るように飛翔しつつ雷撃を降らせ、それをするするとかいくぐりながらローレライは距離を詰めていきエルクリッドとアヤセもカードを切った。
「スペル発動デスバインド」
「
黒い渦がローレライの下に現れ伸びるいくつもの腕が捕縛し動きを奪う密造カードのデスバインドをアヤセが切り、対するエルクリッドが切るエルトゥ・スロースはスノウの周囲に黒の炎が連なって現れると素早く巻きつき焼印を入れるように締め付け、その熱さと痛みがスノウに苦悶の声を上げさせアヤセも身体に焼印が刻まれ血を流し熱が襲いかかる。
(これがエルフの魔法、火の夢の力ですか。報告より辛くはないのは多少の加減をしてくれてるということでしょうが、それでもこれは辛いですね……!)
帯電して浮いていたスノウの電撃が消えて力なく墜落しじたばた藻掻き苦しむ様を見ながらアヤセはその力を分析し、同時に自分が使ったデスバインドをローレライが身体を回転させて強引に千切り脱したのを見てその力を確認する。
刹那に白煙がスノウを包み込むとローレライが口を開いて赤い光を浴びせ、攻撃とわかった瞬間にアヤセも素早くカードを切った。
「スペル発動エスケープ」
じゅっと焼ける音が微かにしてエスケープでスノウを強制的にカードへとアヤセは戻すが、刹那に左肩が燃え上がりすぐに火は消え煙が上がる。
少し遅れていれば直撃していた、それ程に速い攻撃と思いつつスノウのカードを持ったまま三枚のカードを引き抜き、一瞬動きを止めて躊躇いのようなものを見せつつアヤセはエルクリッドを見つめた。
「実際戦うと、よりわかりますね。貴女の人柄や思いの強さ、マヤが守ろうと思った理由も……」
「マヤへの挨拶、後でしにいってもいいですか?」
「もちろんです、貴女は妹の親友なのに変わりはない……災禍をもたらす可能性がある事も、マヤが命をかけて守ろうとしたという事も、その事実をワタクシは受け入れここにいる」
法を司る者であり十二星召、そして一人の姉であるアヤセの胸中はエルクリッドも全てではないが理解はしてる。
複雑な思いの中で確かな事を受け入れる姿勢はエルクリッドも理解でき、見倣いたいものだと。心の奥底でほくそ笑むアスタルテの存在が強く感じられながらも、エルクリッドは次の黒のカードを手に取り構え、アヤセもまた手に持つカードの一枚を抜き魔力を込めた。
「スペルブレイク、ユナイト発動! アリス、ホワイト、スノウ、ワタクシと契約する全てのアセスを一つとし新たな存在へと昇華させます!」
スペルブレイクにより発動するユナイトの効力でアヤセが持つ三枚のアセスのカードが束ねられ、光輝く一枚のカードとなり彼女の手に握られる。吹き荒ぶ魔力の風にエルクリッドは押されローレライも下がる程の重圧の中、アヤセはカードを掲げ昇華されしアセスを呼び出す。
「ご覧に入れましょう、真白絢爛たる者達が束ねられた姿を……現れなさい、
眩い閃光の如きその姿が現れエルクリッドも目を瞑り、ゆっくり開きその姿を目の当たりにする。雪のように真白の羽毛に陽炎を漂わせる四枚の翼持つ麗しき神鳥の姿を。
スザクとアヤセが呼んだその名は、火の国サラマンカにおいて襲名していく伝説の守り手の名であるのはエルクリッドも知識としてあり、今目の前にいる
刹那、エルクリッドは走るような痛みを感じ縦一文字に入る傷と血が飛ぶ。それがローレライが真一文字に両断されたこと、スザクが一瞬で放つ熱戦によるものと理解し気づくのは身体が崩れ落ちる瞬間に。
それはかつて
(一、撃で……だ、め……意識……を……)
身体に力が入ってはくれない、沈みまいと藻掻いても意識が奈落へと落ちていく。その中でエルクリッドは倒れまいと手を伸ばした時、彼女が微笑み囁く。
(お姉様は少し下がっててください、後は、アタシがやっておきます)
その声が聴こえた瞬間にエルクリッドは意識を闇へと沈め、刹那に崩れかけた体勢が力を取り戻し足に力を入れて踏み留まる。
カードとなったローレライを受け止めて手早くカード入れへと戻し、流れる血を指で取って舐めて微笑む姿を見てアヤセは目を細め、それがエルクリッドではないものと悟った。
「……報告で聞いています、エルクリッドに倒された者の意識が彼女の中にいると。あなたですね?」
「アスタルテ、そう呼んでくださいませ……アヤセ・ミサキ様」
がらりと変わった妖艶な雰囲気を持つエルクリッドがアスタルテと名乗り、アヤセもその事実を受け入れつつここからが本番と気を引き締め直す。
(ここまではシリウス殿の推測通り引きずり出せた……後は、真意を見極めねばなりませんね、アスタルテの、目的を)
目の前に立つは脅威か否か、そしてアスタルテもまた、何かを思い手を見つめ握り締めるとカード入れへと手をかけた。
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