演目・操糸反射

 舞姫ルリに組みかかられながらもリンドウは器用に手首を動かし剣を放って導火線を断つ。だが直後に組み付いている舞姫ルリから香る火薬の臭いと熱を感じ取り、察したリオとそれに気づくシリウスがカードを切った。


「スペル発動エスケープ!」


「即興演目・発破心中」


 ガチンと金属が弾ける音と共に舞姫ルリが閃光と共に爆裂し、一気に業火が広がり舞台を焼き尽くす。それに巻き込まれる形で鬼火鳥タテハも吹き飛ぶが、糸が繋がっておらずがらんどうの骨部分のみとなって飛び散り威力を受け流す。


 爆風吹き荒れる中で戦いを見守っているエルクリッド達はタラゼドが張った結界で守られつつ、自身への反射を省みない危険な攻撃を仕掛けたイスカに戦慄する。


「オーダーツール中なのに自爆させるなんて……」


 オーダーツール中は対象ツールの破損がリスナーへ反射し、アセス以上に手傷を負いやすい。それ故使えたとしてもここぞという場面で使うものであり、イスカのように主軸とするなら尚更傷つかないようにしなければならない。


 生命を省みない戦い方など自滅同然、だがすぐにノヴァが何かに気づいてエルクリッドを呼び目を見開く。


「エ、エルクさん! イ、イスカさんを見てください! 反射が……」


「うそ……無傷じゃん!?」


 ノヴァの見る先にいるイスカが全くの無傷でいるのをエルクリッドも確認し、その事実には舞台に立つリオも額から汗を流し手を強く握る。

 

(オーダーツールを解くにはリスナー本人が直接触れるかアセスが触れてなければできない……糸、ですか……!)


 背中につける機巧の腕を動かし指先から赤い糸を飛ばすイスカが飛び散ったタテハに糸を繋ぐ中で、リオは無傷の答えを導き出す。爆発の直前に糸を通してオーダーツールを解除しつつ、素早く切って舞姫ルリを自爆させた。


 解除してれば当然イスカへの反射はない、逆に、オーダーツールを解いた事でバラバラとなった舞姫ルリは通常のツールカードと同様にカードへ戻ると消滅し、それを見届けたイスカが視線を前へ戻す。


「即興演目じゃ流石に通じないか。エスケープを切らせただけいいけど」


(まだイスカ殿はアセスを召喚してはいない。そしてデュオサモンと違ってオーダーツールは後から足す事ができる……厄介ですね)


 アセスを二体同時召喚するデュオサモンは通常の召喚と異なり魔力の供給量が分割されないので本来の力を二体共出せるが、新たに召喚するには二体を戻す必要がある。

 だがオーダーツールは後から足せる点でデュオサモンと違う運用ができ、特にイスカの場合は人形を扱えさえすれば戦える為に利点となり得る。ただし、糸で操る以上は限界がある事もまた事実だ。


 戦況としてはエスケープでリオとシリウスはアセスを一体ずつダウン状態にした為に召喚不可、イスカも機巧人形を一体失い互いに大きな手傷はなく互角と言えた。


 もちろん、リスナーの初戦というのは手の内の探り合いや様子見を基本とする為に、一気に決めに来るということはない。鬼火鳥タテハの再構成を完了させ紫の炎で覆い姿を戻すイスカが新たにカードを抜く素振りはないが、機巧の腕二本に加えて左手の指先からも糸をつけてる事からより精密な動きが可能となっている。


(新たな人形を出さない所を見ると、タテハという人形にはまだ知らない仕掛けがあると見ていいでしょう。カゲロウ神社にて繰り出した大型機巧の存在も考えると……)


 人形であるが故に様々に仕掛けが施せ、生身ではない強みもある。だがそれが弱点ともなりうる。

 深呼吸をしてリオは霊剣アビスのカードを抜き、シリウスもまた次のアセスのカードを引き抜き臨戦態勢へ。


「氷解せし祈りよ、凛々しき刃にその思いを乗せ詠い奏でよ! 共に戦ってください、霊剣アビス!」


「神の眷属たる獣、威風堂々たる姿示し浄化の力を示せ……! いでよ精霊獣バロン!」


 天より舞い降りる霊剣アビスを手に鞘から抜いたリオが前進み、雄々しい聖なる鎧を纏う精霊獣バロンをシリウスが召喚する。対するイスカは鬼火鳥タテハを左手と機巧の両腕で操る姿勢を取り、カード入れに右手を置く。


「霊剣アビス……あのじゃじゃ馬娘の剣を自分で使う戦術含めてやるんだ、面白い舞台になりそう……!」

 

 リオの手にする霊剣アビスに関心を示しつつイスカが動く。左手を引き機巧の両腕は左右へ広げつつ指を細かく動かしてタテハを羽ばたかせて飛翔させ、舞台目掛けて紫の炎の雨を降らす。

 先の舞姫ルリの爆炎は既に消えつつあるがまだ残っており、その中でどう戦うか、リオは見上げながら剣を振るい炎を消し去って見せ同時にゆっくりとバロンが動きシリウスがカードを抜く。


「スペル発動アースフォール、リオ殿」


「ご心配なく、そういう鍛錬も経験済みです!」


 上空に現れた巨大な岩が剥がれるように崩れ岩の雨となって降り注ぎ、それを避けるようにタテハが飛ぶ。刹那、落ちてくる岩から岩へとリオが飛び移りながらタテハへと迫り、それを見てイスカも舌打ちしながら糸を操りタテハを覆う炎をより強くする。


 本体が分解前提で攻撃に対し身体を覆う炎で遮り、通ったとしても切り離し受け流すというのはリオも以前の戦いから把握済み。仮に通らせたとしても、舞姫ルリのように道連れを前提とした仕掛けをしていても不思議ではない。


(どーすんの、リオ)


(そういう時の為の技も、クレス様から叩き込まれています。力を貸してください)


(んじゃ、ご期待通り任されるよ!)


 対話を終えた霊剣アビスの刃が銀の光を帯び、リオもまた岩から岩へ飛び移りながらタテハとの距離を保つ。

 その様子から何かを仕掛けてくるとイスカは気づくが、リオが動くのに合わせバロンもまた岩から岩へと飛び移りながら登って迫る事を視認しカードを切った。


「スペル発動ファイアフォール。簡単には、取らせない」


 タテハが大きく羽ばたくと同時に巨大な火球がバロン目掛けて落下し、それを前にしてバロンは構わず真正面から突っ込みイスカは目を見開く。

 刹那、イスカが目にするのはバロンの眼前で見えない何かがファイアフォールを防ぎ止め、そのまま押し留めているという状況だ。特異な能力を持つ存在と把握しつつも同時に動きも止めてると言え、すぐに意識をリオへと戻しそちらの対応へ切り替えた。


(……巫女の剣士には切れないものを断ち切る技もあったな。それを狙っているなら起爆させて巻きこめばいい)


 過去に手合わせした十二星召クレスの技術はイスカは記憶し、想定した対策手段も用意してある。リオの狙いも読みつつタテハが常に彼女から隠れるように回避行動をさせながら待ち構え、瞬間、リオがカードを引き抜き素早く発動する。


「スペル発動、アイスバインド」


(氷結の束縛魔法……蒸発させ水蒸気で目隠し、か)


 冷気がタテハへ襲いかかるが、全身を覆う紫の炎がすぐさま蒸発させイスカの想定通り水蒸気が目隠しとなる。

 氷は炎に溶かされ蒸発し一気に気化する、それを逆手にとっての目くらましとするのは基礎戦術の一つ、特に水の国アンディーナ出身者が得意としているものだ。


 リオがアンディーナの騎士である事はイスカも把握済み、当然その戦術とそこから繰り出される戦略の選択肢も。大きく機巧の腕を引き糸を張って水蒸気から一気にタテハを引き抜き、バロンがまだファイアフォールで押し留められているのとアースフォールの岩が残り僅かなのを確認してから腕を引く。


 刹那、水蒸気を切り裂く閃光がタテハの左翼を切り落とす。が、左側の糸こそ切られたが一瞬早くタテハを分離しイスカは反射を受けずに済む、かに見えた。


「っ……! これは……」


 思わず声に出してしまうその違和感が肌を伝わり、刹那にその答えを捉えイスカは目を丸くする。

 切断された魔力の糸が赤色ではなく青い光を照り返し、それが凍結によるものであることと、それにより糸を繋ぐ機巧の腕まで凍りついた事に気づき、強引に魔力を注ぎ力技で氷結した腕を動かし氷を砕く。


 その人形操作が乱れ注意が逸れたその一瞬を逃さず、リオが霊剣アビスを手にタテハを炎諸共十字に切り裂きイスカの身体にも十字の切り傷が走った。

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