演目・華焔舞
アゲハ家の演劇場は舞台であると同時に闘技場も兼ねている。無論普段は闘技場として使われる事はなく一般解放もされてはいないその場所は、星彩の儀におけるイスカの試練の場として人目に触れる事となった。
朝起きてからシリウスと合流を果たしたエルクリッド達はイスカの対策や戦術を想定した話し合いを済ませ、その舞台へと向かう。受付で巻物を見せると通常の劇場とは別の通路へと案内され、薄暗く長い廊下を歩き続けると拓けた空間へと繋がる。
一段高くなった石造りの舞台、周囲を高い柵で囲って見えなくしており、その上漂う空気感からエカンの街から離れた場所とエルクリッド達も察しがつく。
「リオさん、シリウスおじさん、頑張ってくださいね」
「その期待に応えられるよう善処します」
「同じく……姪の前で恥ずかしくない戦いをしなければ、な」
エルクリッドの声援を受けて舞台へとリオとシリウスが向かい、エルクリッド達はいつの間にか用意されていた観覧用と思わしき椅子に座ってそれを見送る。
リオとシリウスの二人が舞台上に立つと、音も無く白黒の衣纏うイスカが向かい側に降り立ち静かに立ち上がって前に向く。
無機質なイスカの表情は人形そのもの、否、人形を操る者として存在感を消しているかのよう。普段から感情を表さない彼がさらにそれを封じる所から、言葉がなくとも本気で挑むというのが伺えリオとシリウスは静かにカードを抜いた。
「イスカ殿、どちらかが戦闘続行不可能になるまで……でよろしいですか?」
「少し違う」
とんっと自身のカード入れを叩いて開けながらイスカがリオに淡々と返し、二枚のカードを抜いて手に持ち裏を見せつつ言葉を紡ぐ。
「どちらかが舞えなくなるまで、そしてより美しく舞えるか……それがわえの戦い。勝敗なんて舞台の上では無粋……オーダーツール、舞姫ルリ、鬼火鳥タテハ」
オーダーツールにより二体の機巧人形がイスカの前に現れ、同時に羽織る衣を脱ぎ捨て身に着ける機巧の腕が稼働し指先から糸を放って人形と繋がる。意思を持つようにゆらりと舞姫ルリが立ち上がり、鬼火鳥タテハも白銀の骨のみの身体が紫の炎で覆われ飛び立つ。
いきなり二体の機巧人形を操るというのは面食らう形ではあるが、リオとシリウスは冷静にカードへ魔力を込め臨戦態勢へ入った。
「行きますよ、リンドウ」
「堅牢なる翼広げ戦え、エイル」
リオは猫剣士ケット・シーのリンドウを、シリウスは白き石像の魔物ガーゴイルのエイルを召喚し準備を完了する。と同時にイスカの機巧の腕が指を動かして舞姫ルリが地を蹴り一気に迫り、不意を突かれる形ながらもリンドウが細剣を抜きそのままルリの袖から現れる大斧の一撃を防ぎ止める。
「いきなりかよっ……!」
愚痴を漏らすリンドウがそのまま弾き飛ばされながらも体勢を直し、刹那に上空からタテハが紫の炎を降らし面の制圧を繰り出す。それを機敏に動いてリンドウは避け、エイルも空へ飛びながら炎を避けつつタテハへと向かう。
相手の動きを見てからイスカも糸を引いて人形を引かせ、リオとシリウスもカードを引き抜き反撃へ。
「スペル発動アクアバインド」
「ツール使用、竜の盾」
リオの発動したアクアバインドがタテハへと迫り、包囲するように水の膜が包み込まんとする。が、イスカはすぐに糸を切ってタテハを自由落下させながらアクアバインドを受けさせ、そこへ舞姫ルリが大斧の一閃で水の玉に閉じ込められたタテハを解放し、すぐにイスカは糸を繋げ直し再び炎を覆わせた。
その間にシリウスが使用した竜の盾をエイルが手に持ち、耐久性耐火性共に優れたそれにはイスカも目を細めつつ策を練る。
(水の国の騎士の方は前に遊んだからカードの傾向はわかっている、エルフのリスナーの方は精霊獣をアセスとしてる以外の情報はない。即興演目で炙り出すのが手っ取り早く済む、か)
機巧の腕が糸を操りイスカ自身はカードを引き抜く。刹那に舞姫ルリが身体を大きく捻って大斧をエイル目掛けて投げつけ、それを竜の盾で防ぐエイルへタテハが背後から迫る。
が、ルリへ蹴りを当てそのまま高く跳んだリンドウがタテハと繋がる糸を切り裂き、一瞬繋がり切れた事でエイルはタテハから離れ地上へと降りた。
「スペル発動、フレアカース」
エイルの着地と同時に発動するは髑髏を象る炎の呪縛。だが元は魔除けの石像たるガーゴイルであるエイルはその影響を受けず、リンドウも素早く炎に触れぬように俊敏に舞台を疾走って躱し切る。
刹那、リンドウ目掛けてタテハが急降下で迫り、すぐに接近を察知したリンドウが後ろへ跳ぶ。が、タテハに隠れるように死角にいた舞姫ルリがリンドウへと飛びかかり、口を開け鋭いトゲを刺しに向かう。
「スペル発動プロテクション!」
すかさずプロテクションのカードをリオが切り、舞姫ルリのトゲが発射されるも間一髪防御が間に合う。しかしすぐにイスカは糸を操り舞姫ルリを宙返りさせ、低空飛行でタテハがプロテクションの膜へと突撃し紫の炎を勢いよく吹かし始めた。
攻撃はプロテクションで防ぎ切っているが、その配置はリンドウとエイルが対角線上となっており、防がれた炎が左右へ流され逃げ場を奪う。唯一上だけは空いてるが、それが誘いとリオとシリウスは察し声をかけあう。
「シリウス殿、ここは私がスペルを切ります」
「いや、エイルと位置を変えるだけで対応はできる。だがそう容易く凌がせてはくれないはずだ」
軽く跳んでエイルが竜の盾を正面に構えつつリンドウの隣に立ち、そのまま前へ前進しプロテクションの外へ出てタテハの突撃を防ぎ止める。刹那、何かを察したリンドウが上を見たのをリオも考えるより先にカードを引き抜き、舞姫ルリが腕を変形させ木の竜へと変えそれを真下へ向けていた。
「爆砕玉……!」
「スペル発動アクアブラインド!」
ポツリと呟きつつイスカが糸を引くと共に木の竜より黒い玉が発射され、同時にリオの発動するアクアブラインドがリンドウとエイルの上方を包み込む。瞬間、舞姫ルリの発射した玉が大爆発を起こし舞台が爆炎に覆われた。
範囲攻撃に次ぐ範囲攻撃、接近戦を挑もうにも阻止してくる。同時にアセスと異なりイスカの機巧人形はオーダーツールによる強化は受けども、その仕掛けを使う事に魔力を割く事はほとんどない。
(どうするリオちゃんよ、ぶっ壊すにしても骨が折れるぞ)
(わかっている。だが……)
リンドウに促されカード入れにリオは手をかけるものの、無表情のままじっと前を見て糸を操るイスカの思考が読めないのに警戒する。だが言い換えれば糸を引く指の動きを注意していればいいとも言える、それが把握できればどのような動きをしてくるか読めるのだから。
だからこそ、イスカの機巧の腕から伸びてるはずの糸がない事に気がついた時、アクアブラインドをゆっくり通過し落下してくる舞姫ルリがリンドウに覆いかぶさったのに気づくのが僅かに遅れてしまう。
リンドウが舞姫ルリを振り落とさんとした刹那に再び糸をイスカが繋ぎ、同時に舞姫ルリが足からトゲを出して舞台に打ちつけつつリンドウに抱きつき動きを封じ込める。さらにルリの腕から細い導火線が外側へと飛び、エイルの竜の盾で防ぎ止められ拡散されていたタテハの炎が着火し一気に火が走った。
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