闘いの舞
数多の機巧人形が打ち砕かれ、その中心にて背負う円環を眩いばかりに輝かせながら聖犬チャーチグリムのダインが次々と人形を噛み砕き、踏み砕き、蹂躙しながら道を切り拓く。
「スペル発動アースフォース! このまま一気に蹴散らすよ!」
「ばうっ!」
強化スペルによりダインの力が更に増し、白き残影を描くかの如き俊敏なる動きと共に新たに現れた機巧人形達を蹴散らす。大部屋の床を破壊された機巧人形が埋め尽くす中をエルクリッドは駆けてダインと共に次の部屋へ飛び込み、挟み込むように放たれる矢をそのまま走り抜ける事で避け、刹那に天井から迫る人型の大型の機巧に気づきカードを抜く。
と、刹那に大型機巧が横へと吹き飛び、それが蒼き猛禽ビショップオウルのメリオダス、シェダのアセスによる強烈な蹴りによるものと察しエルクリッドは手を止めメリオダスが飛んできた方へと振り向きシェダと目を合わせた。
「余計なことしちまったか?」
「ううん、ありがと。ちょっと飛ばしてたから一息つきたかったし」
二人が言葉を交わす間にダインが起き上がろうとする大型機巧に飛びかかって押さえつけ、メリオダスが鋭い爪を突き立てながら頭を掴みそのまま捻切って捨て同じように身体を破壊していく。
後から来たエルクリッドが呼吸を調えるのを見つつ、シェダは自分の巻物を広げ浮き上がっている青の揚羽蝶の紋を確認し部屋を見回す。
(飛ばしてきたって割には余裕あるな……やっぱ強くなってやがるな。そんで家紋は……と)
旅を共にしてから格段にエルクリッドは成長し、半年間の休息を経てもそれは変わらないとシェダは認識し直す。と同時に試練における自分の目的も進めていき、ふうと小さくため息をついてからエルクリッドもシェダへ話を振る。
「あたしの課題は片っ端から人形壊す事だけど、あんたのは?」
「アゲハ家の家紋を三つ探して写すってやつだ。一つ見つけて、今また一つ見つけたとこだ」
話をしてる間にメリオダスが破壊した機巧人形の装甲を引き剥がし、その中にある家紋が画かれた板を見つけると小さく鳴いてから器用に掴みシェダの所へと運んでいく。それを受け取りながらしゃがみ、板の上に巻物を広げ手を置くと巻物に赤い家紋が転写された。
なるほどとエルクリッドはシェダが自分を助けたのは偶然の産物であると思いつつ、自分の巻物を広げ確認し浮かび上がっている家紋の色味が最後に確認した時からあまり変化してない事を、今しがた撃破した分は含まれてないのを察する。
仲間同士だからまだ許容できるが、目的を果たそうとした時に他のリスナーとの衝突はあり得るしそうならないようにするか、なってでも果たすかの判断は必要不可欠だ。
(デカイのを倒すとしても、横取りされたりしちゃうって可能性はあるし……ここはシェダといた方がいいかな)
リスナー同士の衝突とそこからさらなる漁夫の利の連鎖、そうしたものもイスカは計算してこのような試練を与えたと思うと効率よく大人数をふるいにかけると言える。巻物を巻いてしまいながらエルクリッドがシェダを呼んで振り向かせ、察したのか彼もまた言葉を聞く前に協力だろと返し軽く笑みを見せた。
「メリオダスじゃあ攻撃力不足で壊せねぇ人形もちょいちょいいるからな。代わりに偵察や罠のそれは引き受けるからよ」
「話早くて助かるよ、それじゃよろしく」
笑顔を見せるエルクリッドに一瞬シェダは見惚れかけるが、すぐにそっぽを向いて気を引き締め直す。仲間同士、それ以上はないと思っているが全くないとは言えないのかもしれない。
ふとそこで思い直すのはエルクリッドの伯父シリウスの事と、リオの事である。
「そいや、リオさんとシリウスさんは見かけたか?」
「ううん、でもおじさんがまだ城にいるってのは感じるし、多分リオさんも頑張ってると思う」
正確な位置はわからないが外にはいないとだけエルクリッドはシリウスを感じ、シェダもそれを聞いてそうかと返しつつメリオダスが警戒の鳴き声をした事で切り替えた。
「っと、そろそろ仕掛け罠が動きそうだ。移動した方がいいな」
うん、とエルクリッドも答え二人はアセスと共に部屋を後にし、リオとシリウスの無事を思いつつ目的を果たしに駆け抜ける。
ーー
渡り廊下にエカンの街がよく見える中でチャーチグリム・ダンが背負う円環を解いて帯状にして伸ばし、それを後ろへ下がりながら相対する機巧人形の演者が避け、後ろから迫るランが腰の巻物を奪わんとするがくるりと宙返りをして躱して見せた。
(流石に、加減してやれる相手ではない、か)
背負っている大剣に手をかけながらそう思ったランが構えを取りつつ反転、一気に走り着地間際を狙い剣を突き出す。これに対し演者は両腕の刃を伸ばし天井に突き刺して空中で止まり、同時に身体を回すように上へ逃し避ける。
恐るべき身体能力と判断力、戦い慣れしているのに驚愕する間もなくランの頭を両足で演者は挟み込み、天井の刃を抜くと同時に全身を使いダンに向かってランを投げ飛ばし受け止めさせた。
そこからすぐに演者は反対側へと走り去ろうとするも、道を塞ぐように生えた茨に遮られすぐにランとダン、その後ろにいるリオとシリウスを捉え直す。
「ツール使用、茨の柵……巻物には見つけるとしかなかったが、どうやらそれだけで試練達成とはいかないらしい」
「ではやはり、生身を晒させるしかないという事ですね。巻物を奪われないようにした所から、私の目的も達成できるのは間違いないようです」
片手で巻物を広げ、特に変化がない事を確認しつつカードをしまいながらシリウスが冷静に分析し、それを聞いてリオも自身の目的達成もできるのを口にしつつランが立て直すのに合わせカードを抜く。
とはいえ軽く戦っただけで恐るべき判断力と目的阻止の為に逃げを選べる冷静さ、アセス相手に渡り合う身体能力の高さ、人形を演じ切るだけの実力者なのは確かであり、そう上手くいかないのも確かだ。
無論それは人間相手に遠慮しがちになる、ということを放棄し全力でいけることの裏返しでもあるのだが。
(リオ殿、傷つけずにというのは厳しい相手だ、どうする)
(覚悟を決めて、戦うしかありません。それを承知で相手も役割を果たしているのですから、堂々と戦うのが最大限の敬意になります……!)
心で対話しながらカードへ魔力を込めながらリオの闘志が高まり、応える形でランが剣を持つ手に力を入れ一瞬身体を屈めてから床を力強く踏み抜き一気に距離を詰めた。あまりの速さに演者も動きが遅れ、懐に入られたのを察した刹那に振り上げられたランの剣が左腕を切り飛ばす。
時には人間相手でも容赦してはならない、そんな事を思うリオの覚悟を感じながらランが演者の腰の巻物へと手を伸ばしかけたが、瞬間、微かな手応えの違和感と、目の前に赤く細い糸のようなものが見えた事で素早く後ろへと跳び退いて床に深々と刺さる刃を目にし、微かに切られた顔から血が流れた。
それが切り飛ばした左腕から展開されたもの、切り口は生身ではなく木と鉄の仕掛けのものであること、そしてそれと繋がる赤い糸が身体の切り口から伸びてるのを視認し、刹那に糸が張って元通りに繋がる。
「義手……どうりで違和感があるわけ、か」
切り飛ばした刹那に感じた手応えの違和感が、関節を外して破壊を避けた事によるものとランは察しつつ流れる血を手で拭う。
赤い糸は
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