演者

 機巧城に仕掛けられた様々な機巧が行く手を阻み、時にそれは直接襲いかかり時には搦手の如く不意に道を塞ぎ奈落へと導く。

 人が作ったものの中で思い通りに行かぬ事に苛立つ者、焦る者、冷静でいる者、十人十色の素顔を見せながらも止まらず試練へ挑み続ける。


 城へと突入したリオは犬剣士クー・シーのランと共に城内の渡り廊下をゆっくり進みつつ、周囲に気を配りカード入れに手をかけながらすぐに天井裏から奇襲をかける機巧人形に気づき、ランが手にする大剣で刺し貫き一気に両断してみせた。

 音を立てて床に落ちる壊れた機巧人形の方へリオがすぐ寄って何かを確かめ、それを見守りつつ周囲へランが警戒し飛来する矢を弾き落とす。


「思考する間も与えない……これ程の仕掛けが施されているとは想定外、だ」


「かつて火の国は内戦や地の国との争いも絶えず、戦う為の技術は数多く開発され現在も保存されているものが多いと聞きます。無論今の時代で戦争など起きませんが……」


 多くの血が流れた時代を経て今があるのをリオは語りつつ壊れた機巧人形の部品を手に取り、その構造や技術の洗練さを感じつつも何かを探す。

 だがないとわかると部品を置いて通路の横に避けて立ち上がり、ランと共に再び道を進む。


「宝持つ人形からそれを得る……ここまで十数体倒し未だ見つからないということは、特別な個体がいるということかもしれませんね」


「確かにここまで相手にしたのは比較的小型のものばかり。他のリスナーの戦いの気を察するに、大型機巧は広い場所ないし相応の場と思われる」


 リオに課せられたのは機巧人形から宝なるものを奪取すること。だがむやみやたらに戦っても消耗するだけであり、まずは情報収集に留めていた。


 ランの意見を聞いてリオもより広範囲に気を張り巡らせ戦いの気配を察し、滾る魔力や喪失していく魔力を感知し戦乱状態の機巧城でどう動くかを構築しつつ進んでいく。


「リオ殿、今更ながら何故自分を選んだ? 戦力的な面や知恵周りではローズやリンドウのが適任と思うのだが」


「長期戦を見据えると真化しているローズは持続の面で、リンドウは攻撃力の面で不安を抱えます。もちろん霊剣アビスを私が使う場合も防御面に難があるのを踏まえると、消去法としても能力の側面でもあなたが最適なのです」


 恐縮ですと返しながらランは鼻先を動かし空気を嗅ぐ。今回はアセス一体のみしか使えない、一応機巧城の仕掛けによるものか召喚維持魔力の軽減はされてるが無限ではなく、戦闘以外でも数多の罠が待ち構えている。

 それらを念頭に置いて目的を果たさねばならない。機巧城という舞台で演者として役を果たすように、試練を受ける者達は目的という台本に従わされているのかもしれない。


 いずれにせよイスカと相対するには機巧城の試練を越えねばならないのは間違いなく、リオも息を吐いて気を引き締め直す。

 と、曲がり角に差し掛かったところでランが足を止めたのに合わせてリオもカードを引き抜いて警戒し、少しして姿を見せたシリウスと彼のアセス・チャーチグリムのダンと鉢合わせ互いにカードを戻す。


「シリウス殿でしたか。そちらの進捗はどうですか?」


「君と同じといったところ、か。太古の遺跡の罠が楽に思える程にこの建物の仕掛けは多い……人がこれ程のものを築き上げ維持できている事には感服する」


 妹の真意を知る為に数多の遺跡を巡っていたシリウスはそこでの経験を振り返りつつ、機巧城の数多の仕掛けに辟易しているように見えた。確かにそのとおりだとリオも感じつつ、今は仕掛けが近くにない事等を確認し話を進めていく。


「シリウス殿、私に課せられたのは宝を持つ人形からそれを奪う事、何か心当たりになるようなものは見かけましたか?」


「特には。だが既に入城していたリスナー達の何人かは大型人形を探すのを話していた、漁夫の利を得る形を狙うかはともかく提供できる情報はそれだけだ」


 情報交換は今回のような目的達成の上で必要不可欠なものである。お互いを知る者ならそれはしやすく、リオの問いをすぐに察したシリウスも知り得る事を伝え、彼女が頷きつつそれを受け聞く姿勢を示すとシリウス側もまた目的の手がかりについて触れる。


「このシリウスの課題は本物を探せ、ということだ。検討はついてるが、リオ殿の意見を貰いたい」


「本物、ですか」


 ぱっと聞いただけですぐに答えは出なかったが、腕を組み思案したリオはすぐに答えとなり得るものを伝えた。


「アゲハ家の演舞の中に、人が人形に入り糸で操られてるかのように舞うものがあります。おそらくはそれを指しているのかと」


 ふむ、とリオの提示した情報を聞きシリウスも思考を巡らせる。人が人形を演じるというのは少し違和感はあるが、武具を纏って戦うようなものと思えば合点はいく。

 同時にリスナーとそのアセスを相手にして渡り合える存在と言え、容易ならざる相手なのも確かな事だ。リオも同様に、多少の危険を犯していかねば達成不可能なのだろうと考えをまとめ、互いに顔を合わせてから静かにすれ違い去ろうとした時であった。


 壁が横に動き開かれた隠し通路より飛び出すは紺の着物を纏う機巧人形。両腕の袖より幾重の刃を展開させながら二人へ飛びかかり、すかさずランが刃を剣で受け止め弾き飛ばす。距離を取るように身軽に後転する機巧人形へダンが素早く駆けて間合いを詰め、ガキンと牙が空を噛み切る。


 刹那に機巧人形が反撃とばかりに左腕を突き出しダンを貫きに行くが、ランが迫るのを察したのか攻撃を止めてすぐに離れ天井に足をつける姿勢を取った。


「……リオ殿、どうやら我々の目的は一致したらしい」


「そのようです、ね」


 シリウスが気づくのは機巧人形の腰に備えられる巻物である。これまで撃破してきたもの、目撃してきたものにはなかったものの存在は宝ないし何かしらある証と。

 そしえリオもまた、ランの嗅覚が目の前の人形が人形ではなく人が入っているものと気付きカードを抜く。


 二人の言葉を聞いても人形の演者は何も言わず面越しに相手を捉え続け、両腕の刃を変形させ大きな刀へと変えると再びランとダンへと切りかかる。


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