明日、私は
あるまん
しあわせかもね
明日、私はこの住み慣れた子爵邸を離れ、侯爵子息の元へと嫁ぐ。相手はどんな奴? 良く知らない。一度の舞踏会で見染められ、一方的に婚約宣言されてから会った事も無いから。
世の仕組みは変わってきて、ひと昔前の様に必ずしも親が決めたり、家を存続させる為の婚約など断わっても良い風潮になって来ている。現に十数年前、侯爵令嬢様が親の決めた縁談を破棄し、遠い異国からお忍びでやってきた貴族、其の国では皇族と言ったかしら? と結ばれたという話があった。
私も当時他の息女と共に其の様なロマンスへの憧れを語り合い、まだ見ぬ未来の旦那様へ思いを馳せたものだ。
我が子爵家は裕福という程でもないが其れなりに事業は発展していて、領民の評判も良好に思える。子爵である父上も、領地を継ぐであろう兄上様達も頑張っていらっしゃる。私と家族との仲も其れなりに良好だと思っている。
かたや相手の侯爵家も、まぁ良い噂も、悪い噂もそこそこある、こういうのも変だが「普通の」侯爵家だ。私の義父となられる予定の現侯爵様は厳格そうな御方だが、同じく義母になられる予定の侯爵夫人様はお優しそうだった。
私の旦那様予定は次男で、長男様は既に御結婚・御子息様に恵まれてらっしゃるし、私が嫁がなくても侯爵家の次々世代迄は居る。
肝心の旦那様予定は騎士団副団長で、出会った時の印象しかないがまぁ平凡ちょい上な顔、其れなりの筋肉、覇気もそこそこといった感じか。
私自身其処迄結婚願望はなかったが、周りの息女に合わせ其れなりに美を磨き、子爵息女として恥ずかしくない程度の容姿だと思う。
一目惚れに近い形で見染められた事には其れなりに自信が持てた。ま、もぅ少し愛を深める期間を経由して貰いたいものだが、武人だし其の辺の間隔は他の貴族とは違うのだろうか?
最後になったが、私は転生者、である。前世で何故亡くなったか等は覚えていないが、俗にいう腐女子で、この世界も実はやり込んでいた恋愛ゲーの世界だと知っている。
え? 其れなのに歴史を改変しないで婚約を受け入れるのか? ですって?
逆ね、知っているからこそ受け入れるのよ。
先程例に出した侯爵令嬢様と異国の皇族のラブロマンス、是が私のやっていた恋愛ゲーのメインストーリーだった。
そして私の実家の子爵家、この家はその作品の外伝になる「数十年後の」ストーリー、其方にちらりと登場した家の筈……私の時代はメイン直後、外伝が始まる数十年前……どちらの作品にも私と私の旦那様自体は出ないが、確かに我が子爵家の筈である。
私が結婚しても、しなくても、我が子爵家は大丈夫かもしれない。現に兄上様方、姉上様方も既に結婚なされているし、妹にも気になる殿方が居るみたいだ。
だが、余りにも不確定要素が多過ぎる。外伝の話でも其処迄重要な家ではないが……私が「普通に暮らしていて」決まった縁談を無理に潰し、歴史が変わり、我が子爵家が外伝に名前すら出なくなる事の方が怖いのだ。
嗚呼、恋愛ゲーの主役クラスでなくてよかった。私は私の意志で、世界を壊せる程は、強くない。
嗚呼、好きな人が出来なくてよかった。旦那様も幸い全く好みじゃない訳でもない。其れなりに愛する事も、子を成す事も出来るであろう。
……
嗚呼、ならなくてよかった。
明日、私は あるまん @aruman00
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