鮨
あきカン
第1話
僕は魚が嫌いだ。理由を聞かれれば「コーヒーとカフェオレのどっちが好きか聞かれているようだ」と答える。肉と魚のどちらが好きか聞かれて、魚と答える人間も一定数いるだろう。しかし僕は断然肉と答える。
なのにウチの家は僕意外全員が魚派だった。冷蔵庫には細切れ肉すらなく、代わりにししゃものパックが三つ入っていた。冷凍庫にも魚しかない。
僕は母親に直談判をした。
「一週間に一回でいいので、肉料理を食べさせてください」
母は了承し、週一でハンバーグを作ってくれると約束した。
そうして、食卓に運ばれたハンバーグを口に入れた瞬間、僕は気づいた。妙に味があっさりしている。油の量も控えめで、なぜか添え物に大根おろしが付いていた。
そして極めつけは、隣で姉が心底旨そうにハンバーグを頬張っているのだ。僕は確信した。これは肉じゃない。魚の切り身を使っている。しかし母親は認めないだろう。肉を使ったと言い張るはずだ。
「姉ちゃん、これなんの肉使ってると思う?」
「えー、たぶん魚肉じゃない?」
勝った。僕は心の中でガッツポーズをした。姉に舌で敵う者はいない。母親の方を見ると、こっちを振り返っていた。
・・・いや、待て。魚肉は、魚なのか? 肉なのか? 僕は確かに肉料理を食べたいと言った。しかし、豚肉とも牛肉とも言っていない。そもそもハンバーグは挽き肉が一般的だ。であれば、魚肉で作るハンバーグはれっきとしたハンバーグだ。
負けた・・・まんまと策略に嵌まってしまった。母は最初から魚肉を使うつもりだったのだ。僕はまんまとその誘いに乗った。
しかし、次は負けない。もう隠れてKFCを食べに行くような惨めな真似はしたくないのだ。いやそれも背徳感があって悪くないのだが、どうせなら家族の目の前で貪ってやりたい。
そして俺は再び母親の前にかけよって直談判した。
「次のテストで百点取ったら、豚肉でも牛肉でも鶏肉でもいいから食わせてください」
再び母親は了承した。僕は約束通り次のテストで百点を取った。そして母親の提案で外でお祝いをすることになった。
車の中で僕は助手席に座る母親に訪ねた。
「どこに連れていくつもりですか」
「いいところ」
「ねえお母さん、わたし海鮮丼食べたい」
黙れ。これは僕が勝ち取ったものだ。何家でも何将でも肉が食べられるならなんでもいい。
「はい、肉巻き寿司です」
くっ、そうきたか。しかし寿司とはいえ米に肉が乗っているのだから牛丼と変わらないはずだ。僕は大きく口を開けた。
あれ? 肉ってこんな油きつかったっけ。食感もギトギトして変な感じだし、なんか思ってたよりも・・・美味しくない。
「姉ちゃん、僕にも海鮮丼分けてくれない?」
「ダメー! これはわたしが頼んだやつなんだから」
「頼むよ! もう肉が食べたいなんて言わないから。KFCだけにするから!」
「KFCってなに?」
僕は母親に向き直った。
「もう隠れて肉食べようとしません! 買い食いもほどほどにします。だから海鮮丼を食べさせてください!」
母親は了承した。まもなく海鮮丼が運ばれてきた。そして僕は、それを思いっきり頬場った。
でも、その味は僕の予想とは大きく違っていた。刺身は初めて食べたけれども味気なく、醤油と山葵だけという手間を省いた感じが受け入れがたかった。
そして僕は気づいた。肉料理を食べたい僕のために、母は色んな手間をかけて料理を作ってくれていた。ただの魚料理では満足できない、僕好みの味付けがすでに作り上げられていたのだ。
「完敗です」
そして次の晩御飯はハンバーグだった。味も大変おいしく、母親に感想を言うと次のような返答だった。
「パックが切れていたので、お肉を使いました」
鮨 あきカン @sasurainootome
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