第3話 白滝城の戦いから1ヵ月 ③
俺は鶴巻高校1年生、
新之介は頭もよく、高身長で剣道の有段者。何より気持ちのいい性格で男女ともに人気がある。実家はお寺でお経も唱えられる。念仏が有効な悪霊なんかにはその効果は絶大だ。ただ力任せの
後藤はスレンダーなスタイルの活発な女子。肩まで伸びた髪先がいつもちょっとだけ跳ねている。彼女も新之介と中学まで剣道をしていたらしい。本人
新之介が「危ないからついてくるな」と言っても「どうしてよ」と噛みついてくるので、組織から『対怪異用の拳銃』を借りて後方支援をしてもらっている。本人もまんざらではないようで、銃のセンスもかなりあったようだ。今では百発百中の腕前で外したところを見たことがない。でも彼女は刀を抜きたくて仕方ないようだ。
新之介と後藤は
「あんな嘘であの場を切り抜けられると思えなかったんだよ。紗希こそよくあんな白々しいこと平気で言えたよな」
「あー言うしかないでしょ!私だってわざわざあそこにしゃしゃり出て行きたくなかったわよ。でも……」
「…あぁ…まぁ…、そうだな…。助かったよ。紗希のおかげで丸く収まった、ありがとう…」
「…うん、わかればいいのよ」
三人とも顔を合わせようとはしなかった。車内に沈黙が流れる。口を開いたのは新之介だった。
「唯人…お前あの住人の人…どうするつもりだったんだ?」
「……、わからない…、イライラしてたんだと思う。殺そうとか思ってたわけじゃない、ただ…俺たちに
「……」後藤は窓から車外を見ている。新之介も真ん中の座席から前方を見ているだけ。俺も二人と顔を合わせることが出来ずに、伏し目がちに車外を眺めていた。上田
「仕方ないでしょうよ、君たちは命を張っているんだもの。何も知らずに寝ていた人たちが、これはどういうことなんだ、説明しろ!警察は呼んだぞ!なんて面倒なことを言ってくればイライラもする。正常な反応だわよ」
俺たちの視線は助手席の上田初枝に向いた。
「奴らを野放しにしておけば、あそこの住人の何人かは食われていたわね。そして何処かに飛んでって、腹がすけばまた人を襲う。すでにその繰り返しをしていたのかもしれない。胃の内容物を見ればわかるけど…」
「うえー、気持ち悪い」後藤が正面を向いて
「この地域の行方不明者は50人を超えたわ。まだまだ被害は出るでしょうね。
新之介が質問する。
「それなんですけど、本当にそんなことがあるんですか?人間に擬態した悪魔が、この社会にもともと溶け込んでいるって話…」
「本当よ。能力のある一握りの霊能力者だけが、何とか見分けが着くレベルで、上手く擬態してるわ…。大昔からいるのよ、人間に寄生して負のエネルギーを吸っている。奴らは人心をわざとかき乱すように先導して、人同士の争いが生む負の念を食らうのよ。奴らにとっては人の血肉よりそっちの方が至高のエネルギーなの。私たち
新之介と後藤が心配そうにこちらを見る。俺は返事が出来ない。初枝さんは更に話を続ける。
「それが何よ、人間に
俺たち三人は初枝さんの言葉を
‶ビービー〟車の車載無線機が警察無線を
『至急、至急。大王町5丁目76番4号 ドラックストア大王町店にて刺殺事件発生。犯人は取り押さえられているとのことだが、抵抗が激しく意味不明な言葉を発している模様。薬物中毒の可能性あり、巡回中の車両については現場に急行願う』
「うーん、これは悪霊に体を乗っ取られた類かな?
「待ってください、もう夜中の3時です。この二人は返してあげてください」
「いや、いいぜ。俺もいくよ」新之介が即答で答える
「あたしも大丈夫だよ」後藤もそれに続いた。
「いやお前は帰れ」
「なんでよ」
新之介と後藤が言い合いを始めた。
「なんでじゃないだろ?こんなん時間まで女子が出歩いてるなんておかしいだろ、危ないから帰れ」
「なによ今更、もう立派な不良娘よ。ここまで来たんだから一緒に行くに決まってるじゃない。また飛んでくる敵だったらどうするのよ」
「今度のは俺の
「大丈夫よ、疲れてるのは新之介も一緒でしょ、そんな特別扱いしないでよ。あたしだっていざとなれば刀で応戦するんだから」
「刀はダメだ、危ないことすんな!」
二人はお互いにらみ合ってからそっぽを向いた。新之介も後藤も今夜は限界まで疲れているはずなのだ。
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