第4話 白滝城の戦いから1ヵ月 ④(完)
俺は二人の会話に入る。
「俺は…二人には休んでほしい…今日はもう十分だから…」
「…
「うん、まあ…、また次が出てくればだけど……」
「……」
「大丈夫だよ、俺…もう眠らなくてもいい体になってるからさ、疲れもないんだよ」
「……」
俺の体はおかしくなっている。大量の
「被害が小さい方がいいだろうし、初枝さんたちに行けって言われれば行くだけだよ」
「やっぱり…」
新之介は押し黙ったまま言葉を発さなくなった。後藤が俺たちの仲を取り持つように言う。
「早く…
「…そうだね…そうなったらきっと楽しいだろうね」
「あと先輩に言ってやるの、ちゃんと
「……」
「そうだな、唯人が暴走しないように、早く若月先輩に帰ってきてもらわないとだな」
そう言うと新之介は短く‶うーん〟と背伸びをする。
「と、なればだだ、次の狩場も俺たち付き合うぜ。今夜はそれで帰るから、いいだろ
「…うん…、ありがとう…」
正直、二人がいてくれるのは心強かった。強力な力が使えるようになった反面、自分が何者なのかわからない瞬間がしばしばある。もう普通の高校生活も出来きず、人として真っ当な毎日が送れない気がしていた。
しかし、この二人はそれを強力に現実へと引き戻してくれる。俺が倒してきた
初枝さんの携帯電話が鳴る。
「はい、――――そうなの、じゃあそのまま待機させといてくれる、すぐにそっちに着くわ。状況を把握してからみんなで取り掛かりましょう―――そうよ、じゃあね――。先に
「はい」
「後藤さんは市街地になるから弾はLHPに切り替えておいて。結界を出そうな
「はい、あと…20発くらいあります」
「よろしい」
車がドラックストアの前に着く。既に
「さあ、行きますか」
俺は自分の眼を対悪霊ように切り換える。角膜が金色に変化し
「フフッいつ見ても綺麗な眼ね」初枝さんが言う。
「そんないいもんじゃありません……」
白々と夜が明けてきている。結界の中には無数の悪霊が飛び回っていた。新之介と後藤の手を取り、二人にも俺が見えているものを共有する。
「いるな―。唯人、俺は不動明王
「わかった。後藤は結界の外で憑依してる人が出てこないか警戒してて。撃たなくてもいいようにするけど、万が一があったら頼むね」
「うん、任せてよ。特殊な弾だから当たっても少し体に食い込むくらいよ」
後藤は人を撃つということに迷いはないようだ。
「いいか紗希、撃つのは万が一の時だけだぞ」
「わかってるわよ、うるさいわね」
後藤の事ばかりは言っていられない。俺たちもいざとなれば憑依体の人間を切らなければならない……。
あと一か月…、あと一か月の辛抱だ。9月23日、秋分の日に大規模な
八咫烏はじめ有名な霊能力者も集結すると初枝さんが言っていた。それを超えれば俺たちの日常は戻ってくる。今はその希望にしがみ付くことしかできない。
俺を先頭に上田初枝とそのお供が二人、最後に新之介が結界内に足を踏み入れる。無数に
(お前らのせいでこうなったんだろうが、全部消えろ!)
俺の体から、吹き出すように金光が飛び散らかる。それは瞬く間に結界内外を飲み込み、半径100メートルまで拡大した。嵐のような光の強風がその中で渦巻いている。
「ヒューー凄いわねっ」
「唯人、そこまでしなくてもいい!」
周りの声は耳に入らなかった。八咫烏だろうが上田初枝だろうが何でもいい。近隣住人への配慮だとか、常識の範囲だとかモラルだとか人間性だとか…もううざったい。こいつらを
この体に充満したエネルギーを発散したかった。悪霊だろうと妖怪だろうと悪魔だろうと何でもいい。頭の中を空っぽにして、死んだように眠りたい。
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