晴山第六短篇集
晴山第六
韓国のカジノにて
大学の卒業旅行で韓国に行くことになった。
旅の目的の一つとして、僕たちはカジノに行くことを計画した。勝ちまくってカジノをぶっ潰そうと思ったからだ。そして都合のいいことに、僕たちは泊まるホテルから五万ウォン、日本円なら五千円分のクーポンを貰っていた。タダで金を渡すなんてカジノってなんて馬鹿なのだろうと僕は思った。
宿泊予定のホテルには、カジノが併設されている。僕たちは自分の部屋に荷物を置き、エレベーターで1階まで降りる。カジノに行くのは6人。メインエントランスに集まり、カジノに繋がるエレベーターに乗る。3階でエレベーターを降りると、きらびやかなCASINOの文字が私たちを迎えてくれた。
受付に行き、パスポートを渡して、日本の住所など個人情報を登録をする。登録が終わり、カジノに入るためのカードキーを受け取る。それと、何故かソーイングセットを貰う。登録した人に無料で全員渡すようだ。カジノってなんて馬鹿なのだろうと僕は思う。今日潰されるも知らずに、ソーイングセットもタダでくれるっるてことだ。
卒業旅行でカジノで遊ぶときに一番大事なことは、もちろんギャンブル好きな美人の女の子と一緒に行くことだ。
茶色のボブヘアに、眼鏡を掛けた女の子。黒のワンピースは、背中に大きめのスリットが入っている。それは、ここが非日常であることを僕に教えてくれる。この旅行で一番、目を向けてしまうのは彼女だった。
「一緒に行こう」と僕は言った。
「私たちでカジノ潰しちゃおう」と彼女は言った。
僕と彼女はとりあえずカジノを一周してみることにした。入口付近にはスロット・マシンがあり、その先にはブラック・ジャック、ルーレットが設置されている。更に奥にバカラの卓が数多くあり、一番奥にはVIPルームがあった。
スロット・マシンに座っている人たちは、僕にはパチンコ屋にいる日本のくたびれたおっさんと同じように見えた。実際大して変わらないのだろうと思う。ブラック・ジャックの所には人はほとんどおらず、ルーレットにはまばらに人がいた。一番盛況なのはバカラで数多くの卓が立っている。
僕と彼女はバカラで勝負するのが良さそうだと考える。
カジノを一周してルーレットの方に行くと、一緒に来ていた4人がルーレットの前にいた。知らないおじさんと話している。
どうやら、ルーレットをやっている日本人のおじさんに、ルールを教えて貰っていたようだった。六十歳くらいの老けたおじさんだった。
おじさんは、ルーレットに賭けることと、カジノに初めて来た日本人にルーレットのルールを教えて感謝されることを人生の意味としているようだった。
そのため僕たちにも、ルーレットの賭け方を教えてくれた。そして、自分のルーレット哲学を提供してくれた。
「俺はね、ルーレットは赤にしか賭けないんだ」おじさんが言う。
「何でですか?」彼女が訊ねる。
「日の丸の赤だから。赤にしか賭けないんだよね」
僕はその人を日の丸おじさんと呼ぶことにした。
日の丸おじさんはクシャクシャのメモ用紙を僕たちに見せてくれた。ミミズのような字で、何かが書いてあった。その紙には、いつ赤が来るのかと、どれくらい儲かったかが書いてあるようだった。日の丸おじさんは自分がどれだけカジノに勝ち、確率を超えた存在であるかを伝えてくれた。
日の丸おじさんに促され、4人はルーレットに賭ける。日の丸おじさんは赤に賭けろ、今は賭けるな等、自分がプレイしているかのように介入してくる。
そうして彼らの五万ウォン分のクーポンはあっという間にルーレット・マシンに飲み込まれてしまった。
彼らはルーレットに負け、日の丸おじさんに負けた。
私と彼女は日の丸おじさんを離れ、バカラの卓に向かった。
バカラは単純なゲームだ。
バンカーに賭ける。プレイヤーに賭ける。タイ(引き分け)に賭ける。行動はこの3つ。バンカーかプレイヤーに賭けて買った場合、チップが2倍になる。タイに賭けて買った場合、8倍になる。
ネットで調べると、バンカーに賭けるのが最も有利な選択で、還元率は約98.94%のようだ。細かい計算は分からないが、プレイヤーやタイに賭けると、これより還元率は低い。
という訳で、ひたすらバンカーに賭け続けることがカジノをぶっ潰す。僕はそう決めていた。
ちょうど新しい卓が立つテーブルがあったので、僕はその席についた。僕の他は中国人が3人だった。
予定通り、五万ウォンのクーポン券をバンカー賭ける。
ディーラーが、バンカーとプレイヤーのトランプをめくる。低レートの卓では、配られたカードをプレイヤーが少しずつ捲って確認する、絞りは行われない。
結果が出て中国人は喜んだり悔しがったりする。私は感情を一つも揺らさずクールに待つ。ディーラーは僕のクーポン券を回収し、代わりに僕にチップをくれた。僕はそれを見て、あ、勝ってたんだと思う。僕はトランプがどの数字を示せば、どっちの勝ちなのかは調べていなかった。
次のゲームで僕は渡されたチップを全部バンカーに賭けた。
中国人たちも、めいめいにバンカー、ディーラー、タイにベットしていく。
ディーラーがトランプをめくる。結果が出る。中国人は喜んだり悔しがったりする。僕はわからないのでディーラーを見る。ディーラーは倍くらいになったチップを僕に渡す。
そしてまたそれを全額バンカーに賭ける。
そんなこんなで、バンカーの勝ちが五回続き、僕も五回勝ちが続いた。五万ウォンのクーポンは八十万ウォンほどになっていた。日本円だと八万円くらいだ。
はっきり言ってこの辺で止めておきたい気もしたが、後ろで見ていた彼女に男らしいところを見せるためだ。また全額バンカーにベットした。中国人の1人が驚いたように笑う。彼も僕にあわせて、バンカーに賭けた。
ディーラーがカードをめくる。
カジノのルールに則り、僕の全てのチップと、僕を信じた中国人のチップはディーラーが回収した。
僕が席を立つと、今度は彼女が席についた。彼女は五十万ウォン、約五万円をディーラーの前に出した。彼女は僕のようにクーポンでカジノを潰そうとはしていないようだった。
ディーラーはハンディのような機械でそのウォンが本物であることを確認し、それをチップへと換えた。
彼女はバンカーに全てのチップを賭ける戦略ではないようで、ある程度のチップをバンカーやディーラーに賭けていった。
僕は彼女のプレイを少し見てから、その場を離れた。
僕は無料のクーポン券を失っただけのはずなのに、自分の八万円が失われたように思えて仕方がなかった。
失った八万円を取り返さなければならない。僕はそう思った。
手元にはまだ十万ウォン、約一万円がある。これを何かに賭けて、金を取り返す必要がある。
ルーレットだと、日の丸おじさんの介入は避けられないので、もう一度バカラで勝負することに決める。
僕は空いている席につき、十万ウォンを換金し、流れるようにすべてのチップをバンカーに賭ける。タイパ重視のZ世代の僕としては、ちまちま賭けたりしない。
ほどなくして倍のチップが戻ってくる。確率的に不思議なことじゃない。約二十万ウォン。それをまたバンカーに賭ける。約四十万ウォン。日本円で約四万円。
冷静に考えるとカジノを潰すなんて現実的じゃないので、僕はそこで席を立ち、彼女のほうに向かった。
おわり。
晴山第六短篇集 晴山第六 @ksmzwdig
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