執筆初心者さんのための公募向けラノベ道場9/20

あやな紗結

いくらを漬けよう

 買ってしまった。生筋子、いわゆるいくらになる前の、塩で締めてない筋子だ。別に安くなってたわけじゃない。ただ思う存分、自分好みの味のいくらを楽しみたくなって、大ぶりな一腹を購ってしまった。

 早速調理していこう。


 お湯をやかんで沸かす横で、調味液をつくる。レシピサイトを確認して、数字を確認する。

 よく推奨されるのは薄口醤油だけど、食べ慣れた醤油で作りたくて普通に茶色い醤油を入れる。醤油を測った軽量カップに、みりんと酒、水を測っていく。鍋に入れて一度沸かして甘じょっぱい香りがたったら、あとは放置で自然に冷ます。今日は涼しいから、まあほどほどに冷めるだろう。

 やかんのお湯をボウルに入れて、水で埋める。そこそこ暖かいお風呂くらいのお湯にして、塩水を作るのだ。半分くらいやかんに残ったお湯にも塩を入れる。作業する間に冷めてしまうから、水を入れるのは後にしよう。お湯が足りるかは気になるところだけど、その時はまた沸かさなきゃならない。

 ぬるつく生筋子を、お湯の張ったボウルに入れる。表面が白んで、ホロホロと膜の破れた部分から卵が落ちた。その破れた部分に向けて、親指の腹で卵を押し出すようにしながらほぐしていく。前にフォークを使ったこともあったけど、手でほぐす方が潰れる部分が少ないのだ。

 卵は全部膜から外れた。くるくるとボウルの中を底からかき混ぜて、細かな筋や、膜の破片を取り除く。実はこれが一番面倒くさい。卵を外すときは、ぷにぷにと頼りないようで、その実しっかりと破れない感触が楽しいのだけど。この作業はただ地味だ。破片の浮いた上澄みを捨てて、やかんのお湯をまた薄めて温度を落とし、注ぎ込む。何度かそんな事を繰り返して、洗い終わった卵――白んだいくらをザルにあげた。

 シンクに置いたタッパーにいくらを入れたら、鍋の調味液の温度を見る。量が少ないから十分に冷めていたので、容器に注ぎ込む。いくつかうすオレンジの実が浮かぶが、そのまま茶色い液体に沈んでいった。

 さて、タッパーの蓋をしたら、もう冷蔵庫に入れてしまおう。二、三時間待てば、色も見慣れた朱色になって、きっと美味しく浸かる。晩御飯の時に思い切り食べるのが楽しみだ。スプーンいっぱいに、口の中いっぱいに頬張ろう。

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執筆初心者さんのための公募向けラノベ道場9/20 あやな紗結 @ayana_sau

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