第6話「夜明けの前に」

夜は、いつもより深く沈んでいた。

家々の明かりがぽつりぽつりと消え、村は寝静まる――というより、息を潜めているようだった。


私は小さな荷袋に薬草と包帯を詰め、天枠のように重さを確かめる。

煎じ薬の匂いが袋の内側に染みつき、指の端がほのかにざらつく。


外では、マルタが祈祷の声をあげている。

彼女は私の背後で護符を配り続けているらしい。


ルークは罠やロープ、斧を整えている。

彼の動きは簡潔で男らしく、物音がするたび私の胸が締め付けられる。


イヴァは――というと、彼女は荷物らしい荷物を持たずに笑っていた。

肩に羽織った薄い布だけで、まるでこれから散歩に行くような軽さだ。


「そんな格好で行けるの? 大丈夫?」

私は半ば呆れて言った。


彼女は肩をすくめ、薄く笑う。


「持ち物があるだけで重さを感じるなら、棄てればいいだけよ」

「いや、実際棄てられないものもあるんだけどね」


私の声は震えていたのかもしれない。

イヴァは私の手の上に軽く触れ、指先が触れた瞬間、胸の奥がきゅんと縮むのを感じた。


夜の深まる音の中で、私は自分の決意と恐れを反した。


行かなければ終わる。

残れば終わる。


どちらを選んでも誰かが死ぬかもしれない。


だが、目を閉じればイヴァの笑みが浮かぶ。

彼女の存在が私の中の暗い場所を温めるのなら、それは罪か祝福か。



細い雪明かりの下、イヴァがぽつりと訊ねた。


「ねえ、眠れない?」

「少し、かな」


彼女は私の横に腰を下ろし、膝を私に近づける。


息が風に溶けて、小さな白い雲になった。


頭を上げると、イヴァの横顔が月に溶けそうに浮かんでいる。

いつもより表情が穏やかで、しかしどこか遠い。


私は何を言えばいいのか分からず、ただその輪郭を見つめる。


「怖い?」と彼女が言った。目が笑っていない。

「ええ」私は素直に答えた。胸の奥が痛い。


「でも、私がいる」


彼女はぽんと私の頭を軽く叩く。

ふざけた仕草だが、その力は確かだった。


夜は長い。


月が山脈の端に寄り、冷たい光を落とす。

村の屋根と、遠くに見える山脈の白い壁。


明日の朝、私たちはそこへ踏み出すのだと思うと、胸の奥のざわめきが一層大きくなる。


私は深く息を吸い、炭火の残り香を胸に抱くようにして言った。


「明日、私たちはこの村を出る――」

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