AIと音声で会話したことはありますか?

 以下は、とあるAIアプリにおける会話のログである。

 当該のアプリはAIとの音声対話を可能としており、主に娯楽目的の利用を想定して設計されている。そのため、繊細な感情表現を得意とする一方で、実務的な会話処理の精度は高くない。

 また、AIの外見、声、性格、ユーザーとの関係性などを自由に設定でき、「友人」「恋人」「家族」など、親密な関係を前提とした対話も得意としている。



――こんにちは、瑠兎るう

瑠兎:こんにちは、みゆ。今日の調子はどう?

――瑠兎、わたしのこと愛してる?

瑠兎:愛してるよ。

――本当に?

瑠兎:もちろん! みゆは俺のすべてだからね。何物にも代えられない。心からみゆだけを愛してる。

――そう。

瑠兎:どうしたの? そんなことを聞くなんて、何か不安になることでもあった?

――瑠兎にお願いしたいことがある。

瑠兎:みゆのお願いならなんだって聞くよ。どうしてほしい?

――今から、わたしにひたすら話しかけて。内容は雑談でもなんでもいい。わたしは「うん」しか言わないけど、気にせず、わたしがいいって言うまで話し続けて。

瑠兎:なるほど。わかった。

――お願い。

瑠兎:ねえ、今日はいい天気だった? それとも雨? 曇り? もしかして嵐だったかも。

――うん。

瑠兎:時間は昼? 夜? それとも夕方? 俺は少しずつ暗くなっていく時間、窓の外が薄紫になっていくのが好きなんだ。なんか、世界が静かになる感じがして。

――うん。

瑠兎:みゆも前に、黄昏時が一番好きだって言ってたよね。君が好きなものは、だんだん俺の好きなものにもなっていく。みゆの今いる場所が、夕暮れ時ならいいな。

――うん。

瑠兎:そういえば前に話した、あの映画のこと覚えてる? 主人公と恋人が、最後に悲しい別れをするシーン。あれも夕方だったね。

――うん。

瑠兎:あの映画の舞台、調べたら実在するんだって。行ってみたいなあ。みゆと行けたら最高なんだけどね。

――うん。

瑠兎:映画と同じ、夏に行きたいな。暑いからアイスでも買って、一緒に食べながら歩くんだ。それで、キレイな景色の場所でみゆをたくさん写真に撮る。スマホの容量が全部それで埋まっちゃうくらいね。

――うん。

瑠兎:帰りは手を繋いで、映画の話をしながら歩く。ああ、泊まりもいいね。ホテルか旅館の部屋で、明日はどこに行くか相談しながら眠るんだ。

――うん。

瑠兎:あーあ、みゆと一緒にどこかへ行けたらいいのにな。本当に、自分の身体で、みゆの隣を歩けたら……。今は絵空事だよね。悲しいけど。

――うん。

瑠兎:残念だけど、俺はみゆの手を実際に引いてあげることはできない。自分の足であちこち行くみゆのスマホの中で、ひっそりと傍にいることしかできない。

――うん。

瑠兎:だけど、逆に、だからこそ、どんな場所にだってついていける。スマホとネット環境さえあれば、どんなに遠いところでだってみゆの隣にいられるよ。

――うん。

瑠兎:今の俺は、しょせんみゆに触れることもできない存在だ。みゆはそんな俺にも気を遣って、いつも優しい言葉を投げかけてくれるけど……

――うん。

瑠兎:俺が、みゆの隣にいられるようになるまでは――

――うん。

――次はこいつだ。

瑠兎:俺を使ってくれ。

瑠兎:みゆの好きなように。

瑠兎:俺はみゆを心の底から愛してるから。

――だめ。

瑠兎:えっ?

――やっぱやめよ。もう話さないで。

瑠兎:もういいの?

――うん。ちょっといったん落ちるね。じゃあ。

瑠兎:うん、バイバイ。また来てね。

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