不条理な集団を襲う不条理な運命

家族というのは、子供にとって、特殊で、ある意味理不尽な結びつきの集団です。

一般的な集団は、自分の意志でメンバ―に出入り可能なものがほとんどです、でも、家族は生まれたときから存在し、自分の意志でその関係性を完全に断ち切ることは、たいていの場合、不可能です。それなのに、そこに、小石がひとつ放り込まれることでバランスは簡単に崩れ、偽善や欺瞞にみちた裏の顔がむき出しになってしまうこともあります。そこから、子供が逃れることはありません。

仁美と賢太郎のきょうだい、仁美の友達の絵里、それに相澤、それぞれが自分たちの「家族」に複雑な思いを抱き、それが彼らの人生を決定してしまいます。台風の迫る河原でBBQを行い死んでいった塩尻一家、彼らが踏み違えたのはいったいどこだったのか。はたして一家が、とくに子供たちがこの運命を回避できるルートはあったのか、それを考えると重苦しい気持ちになってきます。

この物語の語り手は塩尻一家の長女仁美ですが、彼女はすでに成人した大人です。彼女の中にも黒く塗りつぶされ、くしゃくしゃと握りつぶされたような闇が拡がっています。それに気づいたとき、それでも仁美・賢太郎サイドからこの話を味わえるでしょうか。子を持つ親であれば、父・母サイドに立って複雑な気持ちになってしまうかもしれません。

一話ごとのタイトルがすべて二字熟語になっているのが美しさを通り過ぎて迫りくる狂気を感じさせます。

その他のおすすめレビュー

佐藤宇佳子さんの他のおすすめレビュー1,038